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
自然環境と調和する空間づくり | 私たちのこと vol.5
日本の伝統的空間の魅力 ここ数年、オーストラリアでは日本の伝統的な空間やそれを生み出す内外装材への注目が高まっています。例えば和室や布団の素晴らしさ、外と内を緩やかにつなぐ縁側、光の陰影を作り出す障子、また空間を完全に閉ざさない襖などが挙げられます。そのような日本に古くから伝わる生活のなかの美意識を自身の日常空間に取り入れたい方が増えているのです。飲食店をはじめとする商業物件のケースには前回でも触れましたが(→Vol.4)今回は一般住居の事例も交えながらご紹介したいと思います。 奈良県吉野にある旅館で撮影した部屋からの風景 伝統素材を使ったカスタムメイド 主に私たちが取り扱わせていただいているのは、畳や手漉き和紙、組子細工やヒノキの一枚板などの伝統内装材と呼ばれる素材です。これらの素材は、単なる装飾にとどまらず、空間に深い意味を与え、使う人々に心地よさをもたらします。建国してまだ100年程の若い国であるオーストラリアでは、ものづくりの文化が根付いているわけではなく、労働環境の規制や働き方の慣習なども影響し、伝統的な職人技を生かした製品は多くありません。そんななか、日本の職人が手掛ける商材は、その品質の高さから大きな驚きをもって受け入れられています。 愛媛県内子町にある和紙メーカー五十崎社中 内装素材として特に注目を集めているのは、日本の木材です。商業施設だけでなく一般住宅においても、日本の木材は人気が高く、その美しい木目と豊かな香りが空間に温かみをもたらす役割を果たしています。現代的な空間に和の美しさを取り入れ、調和させる事例が増えています。 他にも過去には、シドニーのパームビーチにある別荘の寝室に設置するために、パームビーチの風景を組子のパネルで表現してほしい、という注文を受けました。寝室を自然に近い環境に整えたいという施主の意向でヒノキ素材の組子細工が選ばれたようです。組子を使ったオーダーメイドの作品制作、とも言えるこの事例では、完成形に正解はありません。「この部分はもう少し光を取り入れてほしい」などというクライアントの細かな要望を汲み、修正を幾度か行った後に、ようやく完成させることができました。 組子細工を使ったパネル制作 空間に現れる作り手の自然観 私たちが大事にしている職人性(→Vol.2)ともつながる部分ですが、空間作りにおいても商材の背景に人間味を感じられることが求められているように思います。素材の質や製造方法はもちろんですが、それを生み出す作り手の想いや地域のストーリーに価値を見出すお客様が多いと感じます。単なる機能性や見た目の美しさを超えて、商材から作り手の「意識」のようなものを感じとり、自身の生活空間がより豊かになることを求めているのではないでしょうか。そのため、私たちもプロジェクトの完成まで、作り手と使い手それぞれの温度感が伝わるようなコミュニケーションを大切にしています。床柱やヒノキの一枚板に代表されるような木材や、インテリアとしても人気の茶道炭は、空間づくりにおいて人気の商材のひとつです。日本では、数世代先を見据えて計画的に山を拓き、無理のない植林を行うなど、作り手のなかに自然と共存する意識が根付いています。そうした職人の自然観や生き様のようなものが立ち現れてくるものが好まれるようです。 滋賀県での木樽づくりの風景 サステナビリティという根底 現代においては、建築素材についても大量生産・大量廃棄が主流です。機械で大量に作り、売れ残っても破棄して、また新しいものを作る。産業廃棄物も大量に出ます。そんななかで、例えば私たちがお付き合いしている陶器タイルや、和紙、竹を取り扱うメーカーさんは、地元の土を使って、注文が入った分だけ作ります。ロスがそもそも出ない生産方法です。お客さんからすると既製品よりも割高になることもあり、注文から3ヶ月程待つ必要がありますが、そういうことはさほど問題ではないようです。それ以上に、適切な量を作ることや、空間に合わせた柔軟な調整、また素材の安全性などに着目し、彼らが身近な自然のサイクルのなかで無駄のないものづくりをしていることに深く共感してくれるのです。 商材の提案時には「工場の電気はソーラーなの?」とか「製造過程でどれ程の量の水をどこから調達するの?」などと聞かれることもしばしば。環境負荷について気にされる方が、私たちのお客さんには多いです。 これらを包括する「サステナブル」という概念はもはや新しいものではなく、オーストラリアでも特に建築に対しては自然に考慮すべき要素となってきています。そうした社会のなかで、自ずから持続可能性を満たしている伝統商材が結果的に好まれているのです。
自然環境と調和する空間づくり | 私たちのこと vol.5
日本の伝統的空間の魅力 ここ数年、オーストラリアでは日本の伝統的な空間やそれを生み出す内外装材への注目が高まっています。例えば和室や布団の素晴らしさ、外と内を緩やかにつなぐ縁側、光の陰影を作り出す障子、また空間を完全に閉ざさない襖などが挙げられます。そのような日本に古くから伝わる生活のなかの美意識を自身の日常空間に取り入れたい方が増えているのです。飲食店をはじめとする商業物件のケースには前回でも触れましたが(→Vol.4)今回は一般住居の事例も交えながらご紹介したいと思います。 奈良県吉野にある旅館で撮影した部屋からの風景 伝統素材を使ったカスタムメイド 主に私たちが取り扱わせていただいているのは、畳や手漉き和紙、組子細工やヒノキの一枚板などの伝統内装材と呼ばれる素材です。これらの素材は、単なる装飾にとどまらず、空間に深い意味を与え、使う人々に心地よさをもたらします。建国してまだ100年程の若い国であるオーストラリアでは、ものづくりの文化が根付いているわけではなく、労働環境の規制や働き方の慣習なども影響し、伝統的な職人技を生かした製品は多くありません。そんななか、日本の職人が手掛ける商材は、その品質の高さから大きな驚きをもって受け入れられています。 愛媛県内子町にある和紙メーカー五十崎社中 内装素材として特に注目を集めているのは、日本の木材です。商業施設だけでなく一般住宅においても、日本の木材は人気が高く、その美しい木目と豊かな香りが空間に温かみをもたらす役割を果たしています。現代的な空間に和の美しさを取り入れ、調和させる事例が増えています。 他にも過去には、シドニーのパームビーチにある別荘の寝室に設置するために、パームビーチの風景を組子のパネルで表現してほしい、という注文を受けました。寝室を自然に近い環境に整えたいという施主の意向でヒノキ素材の組子細工が選ばれたようです。組子を使ったオーダーメイドの作品制作、とも言えるこの事例では、完成形に正解はありません。「この部分はもう少し光を取り入れてほしい」などというクライアントの細かな要望を汲み、修正を幾度か行った後に、ようやく完成させることができました。 組子細工を使ったパネル制作 空間に現れる作り手の自然観 私たちが大事にしている職人性(→Vol.2)ともつながる部分ですが、空間作りにおいても商材の背景に人間味を感じられることが求められているように思います。素材の質や製造方法はもちろんですが、それを生み出す作り手の想いや地域のストーリーに価値を見出すお客様が多いと感じます。単なる機能性や見た目の美しさを超えて、商材から作り手の「意識」のようなものを感じとり、自身の生活空間がより豊かになることを求めているのではないでしょうか。そのため、私たちもプロジェクトの完成まで、作り手と使い手それぞれの温度感が伝わるようなコミュニケーションを大切にしています。床柱やヒノキの一枚板に代表されるような木材や、インテリアとしても人気の茶道炭は、空間づくりにおいて人気の商材のひとつです。日本では、数世代先を見据えて計画的に山を拓き、無理のない植林を行うなど、作り手のなかに自然と共存する意識が根付いています。そうした職人の自然観や生き様のようなものが立ち現れてくるものが好まれるようです。 滋賀県での木樽づくりの風景 サステナビリティという根底 現代においては、建築素材についても大量生産・大量廃棄が主流です。機械で大量に作り、売れ残っても破棄して、また新しいものを作る。産業廃棄物も大量に出ます。そんななかで、例えば私たちがお付き合いしている陶器タイルや、和紙、竹を取り扱うメーカーさんは、地元の土を使って、注文が入った分だけ作ります。ロスがそもそも出ない生産方法です。お客さんからすると既製品よりも割高になることもあり、注文から3ヶ月程待つ必要がありますが、そういうことはさほど問題ではないようです。それ以上に、適切な量を作ることや、空間に合わせた柔軟な調整、また素材の安全性などに着目し、彼らが身近な自然のサイクルのなかで無駄のないものづくりをしていることに深く共感してくれるのです。 商材の提案時には「工場の電気はソーラーなの?」とか「製造過程でどれ程の量の水をどこから調達するの?」などと聞かれることもしばしば。環境負荷について気にされる方が、私たちのお客さんには多いです。 これらを包括する「サステナブル」という概念はもはや新しいものではなく、オーストラリアでも特に建築に対しては自然に考慮すべき要素となってきています。そうした社会のなかで、自ずから持続可能性を満たしている伝統商材が結果的に好まれているのです。
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日本の文化商社としてのスタート | 私たちのこと vol.4
“日本の文化商社”の役割とは? Simply Nativeが生活工芸品を通じた日本の文化商社だということはお伝えしましたが、その在り方は自然な流れで今の姿に辿り着いたように思います。事業開始から振り返りつつ、今求められる私たちの役割について考えてみたいと思います。 石州瓦を耐熱食器として Simply Nativeではインテリア商材から食材まで幅広い商品を扱っていますが、始めは一つの瓦からスタートしました。2016年。島根県石見地方の地場産業に石州瓦という粘土瓦があって。耐火度の高い良質な粘土を1200度以上の高温で焼き上げるという世界でも珍しい瓦で、日本海に面し、冬は雪深い石見地方では、凍害や塩害にも強いこの瓦が重宝されてきました。そんな地域の事業者さんのなかでも、裏山で採れる来待石から作る昔ながらの釉薬にこだわって、さらに1350度という世界一とも言われる高温で焼き締めて瓦やタイル製品を作っているのが亀谷窯業さんです。耐火度の高い瓦は直火もOK。この特性を生かして、耐熱食器として、BBQ文化があるオーストラリアで販路開拓できないか、と亀谷さんと懇意にしている兵庫県小野市の地場産業である播州刃物のブランディングや職人育成を手がけるシーラカンス食堂さんから相談を受けたのが始まりでした。 石州瓦の亀谷窯業 シーラカンス食堂さん、商品デザインを担当するFUDO DESIGNさん、そして亀谷さんと私とで、海外販路開拓に向けたチームを組みました。私は早速、亀谷さんのタイル製品と同素材で作った耐熱食器のサンプルを大きなバッグに忍ばせ、シドニー中の飲食店を周りました。蓋を開けてみると、テーブルウェアとして使ってみたいと言ってくださる飲食店の方は多かった。結果的にタイルが2件、耐熱食器としての契約が3件決まりました。 亀谷さんのタイルは自分で採集した地元の土を使う上に手作業で焼き上げるので、1枚1枚表情が違います。そうした機械製には出せない風合いや釉薬の揺らぎが料理人や建築家に評価されたんです。彼らは常にオリジナリティや特別感を求めているので、そうした商品のムラを面白みだと捉えてくれるのです。 おまけに、彼らは亀谷さんの生き方そのものにも興味津々でした。亀谷さんは仕事の忙しい時でも、春は早朝からタケノコを採りに裏山へ入ったり、夏は近くの海に海藻を採りに行ったり。周りの環境を積極的に楽しんで、自然に溶け込むように暮らしている。彼にとっては瓦づくりの仕事も、こうした生きるための営みの一環としてあるように思いました。彼らが、そうしたものが生まれる背景を「もっと聞かせて」と言っていたのが印象的です。 新規性のある日本的なもの 以降、飲食店向けに食器類の卸を広げていきましたが、オーストラリアで日本食ブームが広がるなかで「日本にインスパイアされたことをしたい」「けれど何が正解かわからない」というオーナーさんが多いことがわかってきました。彼らの方向性は曖昧ながらも、何か新しいことをしたい、という思いが強い。そうした要望に合わせて、商品販売だけでなく、コンセプト作りからブランディング、メニュー開発まで、トータルコーディネイトというかたちでプロジェクトに入ることが多くなっていきました。 一例としては、オーストラリアの有名なシェフMatt MoranがプロデュースしたRekōdoという日本食レストランをトータルコーディネイトしました。そこでは建築のコンセプト作りに始まり、メニュー提案、そして内装用商材やテーブルウェアや食材の卸しを行なっています。同様に、近年出店するオーナーに共通するのは、日本的なことをしたいが新規性がほしい、というリクエスト。そこにどこまで応えられるかが求められているのです。 Rekōdoの店内 ローカルの客層に合わせて抹茶をセレクト もう10年以上ブームが続いている抹茶メニューにも、新規性が求められています。シドニーカフェMoon & Backから抹茶ラテを提供したいという相談を受けた時には10種以上の抹茶を一緒にテイスティングし、そのうち価格と客層に合ったカジュアルなグレードの抹茶を選んでいただき、今も継続して卸しています。一方、世界的にも知られるバー Maybe Sammyには、マティーニに抹茶を入れたオリジナルカクテル「抹茶ティーニ」を提案したところ気に入ってもらえて、そこに使うグレードの高い抹茶を提供しています。 一口に抹茶と言っても産地・種類・グレード・テイストは様々。「苦味が強い」「旨味が強い」といったそれぞれのテイストを踏まえつつ、「アジア系はこういうテイスティングが好き」といった店の客層の好みまで把握した上で最適のものを提案できる事業者はオーストラリアではなかなかいません。そんなところでも私たちがお役に立てているかなと思います。 Maybe Sammy の抹茶ドリンク...
日本の文化商社としてのスタート | 私たちのこと vol.4
“日本の文化商社”の役割とは? Simply Nativeが生活工芸品を通じた日本の文化商社だということはお伝えしましたが、その在り方は自然な流れで今の姿に辿り着いたように思います。事業開始から振り返りつつ、今求められる私たちの役割について考えてみたいと思います。 石州瓦を耐熱食器として Simply Nativeではインテリア商材から食材まで幅広い商品を扱っていますが、始めは一つの瓦からスタートしました。2016年。島根県石見地方の地場産業に石州瓦という粘土瓦があって。耐火度の高い良質な粘土を1200度以上の高温で焼き上げるという世界でも珍しい瓦で、日本海に面し、冬は雪深い石見地方では、凍害や塩害にも強いこの瓦が重宝されてきました。そんな地域の事業者さんのなかでも、裏山で採れる来待石から作る昔ながらの釉薬にこだわって、さらに1350度という世界一とも言われる高温で焼き締めて瓦やタイル製品を作っているのが亀谷窯業さんです。耐火度の高い瓦は直火もOK。この特性を生かして、耐熱食器として、BBQ文化があるオーストラリアで販路開拓できないか、と亀谷さんと懇意にしている兵庫県小野市の地場産業である播州刃物のブランディングや職人育成を手がけるシーラカンス食堂さんから相談を受けたのが始まりでした。 石州瓦の亀谷窯業 シーラカンス食堂さん、商品デザインを担当するFUDO DESIGNさん、そして亀谷さんと私とで、海外販路開拓に向けたチームを組みました。私は早速、亀谷さんのタイル製品と同素材で作った耐熱食器のサンプルを大きなバッグに忍ばせ、シドニー中の飲食店を周りました。蓋を開けてみると、テーブルウェアとして使ってみたいと言ってくださる飲食店の方は多かった。結果的にタイルが2件、耐熱食器としての契約が3件決まりました。 亀谷さんのタイルは自分で採集した地元の土を使う上に手作業で焼き上げるので、1枚1枚表情が違います。そうした機械製には出せない風合いや釉薬の揺らぎが料理人や建築家に評価されたんです。彼らは常にオリジナリティや特別感を求めているので、そうした商品のムラを面白みだと捉えてくれるのです。 おまけに、彼らは亀谷さんの生き方そのものにも興味津々でした。亀谷さんは仕事の忙しい時でも、春は早朝からタケノコを採りに裏山へ入ったり、夏は近くの海に海藻を採りに行ったり。周りの環境を積極的に楽しんで、自然に溶け込むように暮らしている。彼にとっては瓦づくりの仕事も、こうした生きるための営みの一環としてあるように思いました。彼らが、そうしたものが生まれる背景を「もっと聞かせて」と言っていたのが印象的です。 新規性のある日本的なもの 以降、飲食店向けに食器類の卸を広げていきましたが、オーストラリアで日本食ブームが広がるなかで「日本にインスパイアされたことをしたい」「けれど何が正解かわからない」というオーナーさんが多いことがわかってきました。彼らの方向性は曖昧ながらも、何か新しいことをしたい、という思いが強い。そうした要望に合わせて、商品販売だけでなく、コンセプト作りからブランディング、メニュー開発まで、トータルコーディネイトというかたちでプロジェクトに入ることが多くなっていきました。 一例としては、オーストラリアの有名なシェフMatt MoranがプロデュースしたRekōdoという日本食レストランをトータルコーディネイトしました。そこでは建築のコンセプト作りに始まり、メニュー提案、そして内装用商材やテーブルウェアや食材の卸しを行なっています。同様に、近年出店するオーナーに共通するのは、日本的なことをしたいが新規性がほしい、というリクエスト。そこにどこまで応えられるかが求められているのです。 Rekōdoの店内 ローカルの客層に合わせて抹茶をセレクト もう10年以上ブームが続いている抹茶メニューにも、新規性が求められています。シドニーカフェMoon & Backから抹茶ラテを提供したいという相談を受けた時には10種以上の抹茶を一緒にテイスティングし、そのうち価格と客層に合ったカジュアルなグレードの抹茶を選んでいただき、今も継続して卸しています。一方、世界的にも知られるバー Maybe Sammyには、マティーニに抹茶を入れたオリジナルカクテル「抹茶ティーニ」を提案したところ気に入ってもらえて、そこに使うグレードの高い抹茶を提供しています。 一口に抹茶と言っても産地・種類・グレード・テイストは様々。「苦味が強い」「旨味が強い」といったそれぞれのテイストを踏まえつつ、「アジア系はこういうテイスティングが好き」といった店の客層の好みまで把握した上で最適のものを提案できる事業者はオーストラリアではなかなかいません。そんなところでも私たちがお役に立てているかなと思います。 Maybe Sammy の抹茶ドリンク...
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日本の生活工芸品を正しく届けたい | 私たちのこと vol.3
なぜオーストラリア? Simply Nativeはオーストラリアを拠点に事業を展開していますが、「なぜオーストラリアなの?」と聞かれることも多いです。これまでこの国は、工芸品の輸出先としてさほど注目されてこなかったからです。では、なぜ私はこの国を選んだのか? アメリカやフランスではなく。今回はその話をしますね。 日本の生活工芸品を正しく届けたい 中小機構を辞め、独立に向けて動いていた頃。欧米では、日本製品の小売り展開というマーケットは既に開拓されていたので、新たに繰り出しても付加価値は提供できないように思いました。そこで私が目を向けたのがオーストラリアでした。大学時代にオーストラリアやニュージーランドに留学していて、市場の可能性を感じていたのです。2015年、テストマーケティングで訪れたシドニーで感じたのが、この国には日本の工芸を正しく届ける余地がある、ということでした。当時から既に、日本の工芸においては、外国製の安価なコピー品が先に海外に出回ってしまうケースはよくあるのですが、オーストラリアではそうした事例は欧米に比べてまだ少なく、そこに私が開拓する余地を感じたのです。この国に、日本の工芸や、その背景にある文化や人の暮らしについて、正しく情報を届けたい。そんな使命感とともに、オーストラリアでの事業展開を決めました。 単なる取引先にとどまらないパートナーシップ 異文化を受け入れる国民性 初めてオーストラリアを訪れた時に驚いたのが、おおらかで他者に対して寛容な人が多い、ということでした。ゆえに国籍や年齢や立場が違っても関係なく、純粋に人そのものを見てコミュニケーションをとろうとします。それはビジネスの間柄でも変わりません。スタッフとお客さんという立場を超えた友達のような関係性がすぐにできます。おしゃべりが弾むと、ファーストネームを聞かれ、次からはもうファーストネームで呼び合う仲になります。自家製ジャムやケーキのお裾分けをしにきてくれることもあります。 かつて私がヨーロッパの見本市に出展した際には、名刺交換さえなかなかさせてもらえず、彼らとは数年間付き合った後にようやく信頼関係が築けるような印象を受けました。ですがここオーストラリアでは、アジア人の移民で、それもまだ若い私のような人間であっても、取り扱う商品の質や価値をきちんと説明できれば、比較的すぐに歩み寄ることができます。 そうしたやりとりはとても人間らしく居心地が良いものですが、もともと移民の多い国であることと関係しているのかもしれません。結果的に、そんな国民性が日本の生活工芸品のような異文化を受け入れる力になっているように思います。 和気藹々とワークショップを楽しむオーストラリアの人たち ウェルビーイングと日本の生活工芸品 この国では、ウェルビーイングの考えが社会に根付いているように感じます。そこでは、心も身体もいかに心地よく過ごせるか、が重視されます。仕事は人生の一部という考えで、決して無理しすぎず、家族や友人との時間、また自分自身との時間を大切にします。そうしたライフスタイルのなかで、日本の生活工芸品が好まれているのです。 例えば1人で過ごす時間なら、朝のヨガを日課にしているお客さんは「30分という長さがぴったり」ということでお線香を愛用してくれていますし、また友人を家に招いて過ごす時には、こだわりのテーブルウェアなどが活躍します。自分の時間も、大切な誰かと過ごす時間も大事にしたい。そのためには自分がご機嫌でいられることが欠かせません。そこに日本の生活工芸品が選ばれ、生活に取り入れられているのは、自然なことのように思います。 特に好まれるのは、人の手の存在を感じさせるものです。器なら、手捻りだったり、釉薬の「ゆらぎ」があるものが好まれたり、もしくは指紋が微かに残っているようなものが面白がられます。「誰が、どんな人が作っているの?」とお客さんによく聞かれます。人懐っこく、人間味があふれるオーストラリアの人々は、工芸のなかに見出す作り手にも思いを馳せ、親しみを感じているのかもしれません。一つの生活工芸品を通して、さまざまな豊かさを享受することができる。ウェルビーイングの国で、日本の生活工芸品が注目される理由です。 オーストラリアから世界へ 一般的に日本の職人の世界においてはオーストラリアはまだ馴染みの薄いマーケットと考えられていますが、私自身はオーストラリアの大きな可能性を感じています。一つには、オーストラリアからのさらなる展開にあります。孤立した大陸ゆえ、この国以外の展開はイメージしにくいと思いますが、販売先がこの国から海外へ広がっていった商品が多数あります 英語圏かつ、移民が多い国、というのが大きな理由です。例えばBtoBなら、オーストラリアの案件で繋がった方が、他国での案件に使いたいということで、私たちの商品を発注してくれることもあります。BtoCなら、私たちのオンラインショップには世界各国からのアクセスがあるので、そこを通じて世界各地に販売することができます。Simply Nativeはオーストラリアが拠点ですが、ここを起点に販売先が世界中に広がっていく、私たちがその一助になっていることにやりがいと喜びを感じています。 ロサンゼルスへの商品展開...
日本の生活工芸品を正しく届けたい | 私たちのこと vol.3
なぜオーストラリア? Simply Nativeはオーストラリアを拠点に事業を展開していますが、「なぜオーストラリアなの?」と聞かれることも多いです。これまでこの国は、工芸品の輸出先としてさほど注目されてこなかったからです。では、なぜ私はこの国を選んだのか? アメリカやフランスではなく。今回はその話をしますね。 日本の生活工芸品を正しく届けたい 中小機構を辞め、独立に向けて動いていた頃。欧米では、日本製品の小売り展開というマーケットは既に開拓されていたので、新たに繰り出しても付加価値は提供できないように思いました。そこで私が目を向けたのがオーストラリアでした。大学時代にオーストラリアやニュージーランドに留学していて、市場の可能性を感じていたのです。2015年、テストマーケティングで訪れたシドニーで感じたのが、この国には日本の工芸を正しく届ける余地がある、ということでした。当時から既に、日本の工芸においては、外国製の安価なコピー品が先に海外に出回ってしまうケースはよくあるのですが、オーストラリアではそうした事例は欧米に比べてまだ少なく、そこに私が開拓する余地を感じたのです。この国に、日本の工芸や、その背景にある文化や人の暮らしについて、正しく情報を届けたい。そんな使命感とともに、オーストラリアでの事業展開を決めました。 単なる取引先にとどまらないパートナーシップ 異文化を受け入れる国民性 初めてオーストラリアを訪れた時に驚いたのが、おおらかで他者に対して寛容な人が多い、ということでした。ゆえに国籍や年齢や立場が違っても関係なく、純粋に人そのものを見てコミュニケーションをとろうとします。それはビジネスの間柄でも変わりません。スタッフとお客さんという立場を超えた友達のような関係性がすぐにできます。おしゃべりが弾むと、ファーストネームを聞かれ、次からはもうファーストネームで呼び合う仲になります。自家製ジャムやケーキのお裾分けをしにきてくれることもあります。 かつて私がヨーロッパの見本市に出展した際には、名刺交換さえなかなかさせてもらえず、彼らとは数年間付き合った後にようやく信頼関係が築けるような印象を受けました。ですがここオーストラリアでは、アジア人の移民で、それもまだ若い私のような人間であっても、取り扱う商品の質や価値をきちんと説明できれば、比較的すぐに歩み寄ることができます。 そうしたやりとりはとても人間らしく居心地が良いものですが、もともと移民の多い国であることと関係しているのかもしれません。結果的に、そんな国民性が日本の生活工芸品のような異文化を受け入れる力になっているように思います。 和気藹々とワークショップを楽しむオーストラリアの人たち ウェルビーイングと日本の生活工芸品 この国では、ウェルビーイングの考えが社会に根付いているように感じます。そこでは、心も身体もいかに心地よく過ごせるか、が重視されます。仕事は人生の一部という考えで、決して無理しすぎず、家族や友人との時間、また自分自身との時間を大切にします。そうしたライフスタイルのなかで、日本の生活工芸品が好まれているのです。 例えば1人で過ごす時間なら、朝のヨガを日課にしているお客さんは「30分という長さがぴったり」ということでお線香を愛用してくれていますし、また友人を家に招いて過ごす時には、こだわりのテーブルウェアなどが活躍します。自分の時間も、大切な誰かと過ごす時間も大事にしたい。そのためには自分がご機嫌でいられることが欠かせません。そこに日本の生活工芸品が選ばれ、生活に取り入れられているのは、自然なことのように思います。 特に好まれるのは、人の手の存在を感じさせるものです。器なら、手捻りだったり、釉薬の「ゆらぎ」があるものが好まれたり、もしくは指紋が微かに残っているようなものが面白がられます。「誰が、どんな人が作っているの?」とお客さんによく聞かれます。人懐っこく、人間味があふれるオーストラリアの人々は、工芸のなかに見出す作り手にも思いを馳せ、親しみを感じているのかもしれません。一つの生活工芸品を通して、さまざまな豊かさを享受することができる。ウェルビーイングの国で、日本の生活工芸品が注目される理由です。 オーストラリアから世界へ 一般的に日本の職人の世界においてはオーストラリアはまだ馴染みの薄いマーケットと考えられていますが、私自身はオーストラリアの大きな可能性を感じています。一つには、オーストラリアからのさらなる展開にあります。孤立した大陸ゆえ、この国以外の展開はイメージしにくいと思いますが、販売先がこの国から海外へ広がっていった商品が多数あります 英語圏かつ、移民が多い国、というのが大きな理由です。例えばBtoBなら、オーストラリアの案件で繋がった方が、他国での案件に使いたいということで、私たちの商品を発注してくれることもあります。BtoCなら、私たちのオンラインショップには世界各国からのアクセスがあるので、そこを通じて世界各地に販売することができます。Simply Nativeはオーストラリアが拠点ですが、ここを起点に販売先が世界中に広がっていく、私たちがその一助になっていることにやりがいと喜びを感じています。 ロサンゼルスへの商品展開...

SNにとっての職人とは | 私たちのこと vol.2
「職人性」への想い Simply Nativeの商品でもっとも大事にしているのが、vol.1でも触れた「職人性」です。私たちは商品を選ぶ時、そこに職人性が宿っているかどうか、をひとつの基準にしています。Simply Nativeに関わってくださる全ての方に共有でき、かつ共感もしていただける思想として、この言葉を造りました。 木彫り職人の中原氏 使うことで価値が生まれるもの 私たちが扱うのは生活工芸品です。英語では〈Everyday crafts〉や〈Lifestyle crafts〉などと言われることが多いですが、私たちはあえて〈Thoughtful crafts for everyday living〉と呼んでいます。生活のなかで使われる実用品にこそ、美しさや芸術性が宿る。そうした生活工芸に光を当てていきたいという想いが、この言葉に込められています。手作業のみで作られたもの、伝統工芸品、地場産業商品に限らず、半機械製品もあれば、食品もあり、また地域内の生活必需品として作られてきたものなどもあり、ジャンルや生産規模はさまざまです。そのうえで一つ共通しているのは、生活のなかで使うもの、であることです。美術作品のように飾って鑑賞の対象になるものではなく、人の手によって使われ、時に消耗するようなもの。そうした使う体験・時間・空間を介して初めて、価値が生みだされるものです。 作り手の思想と経験の集積 職人性が宿ったものは、使い手のものの見方に刺激を与えたり、生活に潤いを加えたり、時にそれらを大きく変えてしまうほどの力をもっています。日本は、そうした生活工芸品が古くより暮らしのなかで使われてきた、世界的にも珍しい国なのです。 では、その職人性とはどんなものでしょうか。私たちは、生き方における思想や姿勢だと考えます。まずは、自分の仕事に誇りをもち、理想に向かって前進し続けること。もう一つは、自身を自然の一部として理解すること。地域の天然素材を用いた造作がものづくりの出発点であるように、作り手のなかには、地域の自然環境を、自らを含む生態系として捉えている方も多いです。そして最後は、時代を超えた他者との調和です。世代を超えて受け継がれた技術や知恵が、その媒介となります。そうした作り手の思想や経験の集積が、私たちが考える職人性です。 職人性の原体験は父 職人性という言葉から、頭に浮かぶのは父の姿です。父は奄美大島に伝わる大島紬の修繕の職人です。70代半ばで後継者がいないので、奄美で最後の職人になるかもしれません。大島紬の製造は分業制で、30~40の工程を経て完成します。絹糸作りから製品化まで、長い時には1年半をかけ、さまざまな作り手のもとを渡っていくので、その間に小さなひっかけ傷や汚れがつくことがあります。それらを綿密に修復するのが父の仕事です。 父は、染み抜きの実験をしたり、新たなクリーニング法を考えるために別の産地を訪ねたり、といったことを絶えず繰り返し、技術の習得をし続けていました。すべてはお客さん(依頼主)に喜んでほしいから、と話していたのが印象的です。 また、自然のサイクルのなかに身を置くような生き方からも大きな影響を受けました。絹の状態を見て扱い方を考えたり、天気を見ながら作業工程を調整したり。人間と自然のやりとりが、父の作業場では当たり前のように見られました。こうした原体験が、職人性という言葉を導いてくれたように思います。 大島紬の修繕を生業とする由紀乃の父 在外の日本文化のプロデューサーとしての責任...
SNにとっての職人とは | 私たちのこと vol.2
「職人性」への想い Simply Nativeの商品でもっとも大事にしているのが、vol.1でも触れた「職人性」です。私たちは商品を選ぶ時、そこに職人性が宿っているかどうか、をひとつの基準にしています。Simply Nativeに関わってくださる全ての方に共有でき、かつ共感もしていただける思想として、この言葉を造りました。 木彫り職人の中原氏 使うことで価値が生まれるもの 私たちが扱うのは生活工芸品です。英語では〈Everyday crafts〉や〈Lifestyle crafts〉などと言われることが多いですが、私たちはあえて〈Thoughtful crafts for everyday living〉と呼んでいます。生活のなかで使われる実用品にこそ、美しさや芸術性が宿る。そうした生活工芸に光を当てていきたいという想いが、この言葉に込められています。手作業のみで作られたもの、伝統工芸品、地場産業商品に限らず、半機械製品もあれば、食品もあり、また地域内の生活必需品として作られてきたものなどもあり、ジャンルや生産規模はさまざまです。そのうえで一つ共通しているのは、生活のなかで使うもの、であることです。美術作品のように飾って鑑賞の対象になるものではなく、人の手によって使われ、時に消耗するようなもの。そうした使う体験・時間・空間を介して初めて、価値が生みだされるものです。 作り手の思想と経験の集積 職人性が宿ったものは、使い手のものの見方に刺激を与えたり、生活に潤いを加えたり、時にそれらを大きく変えてしまうほどの力をもっています。日本は、そうした生活工芸品が古くより暮らしのなかで使われてきた、世界的にも珍しい国なのです。 では、その職人性とはどんなものでしょうか。私たちは、生き方における思想や姿勢だと考えます。まずは、自分の仕事に誇りをもち、理想に向かって前進し続けること。もう一つは、自身を自然の一部として理解すること。地域の天然素材を用いた造作がものづくりの出発点であるように、作り手のなかには、地域の自然環境を、自らを含む生態系として捉えている方も多いです。そして最後は、時代を超えた他者との調和です。世代を超えて受け継がれた技術や知恵が、その媒介となります。そうした作り手の思想や経験の集積が、私たちが考える職人性です。 職人性の原体験は父 職人性という言葉から、頭に浮かぶのは父の姿です。父は奄美大島に伝わる大島紬の修繕の職人です。70代半ばで後継者がいないので、奄美で最後の職人になるかもしれません。大島紬の製造は分業制で、30~40の工程を経て完成します。絹糸作りから製品化まで、長い時には1年半をかけ、さまざまな作り手のもとを渡っていくので、その間に小さなひっかけ傷や汚れがつくことがあります。それらを綿密に修復するのが父の仕事です。 父は、染み抜きの実験をしたり、新たなクリーニング法を考えるために別の産地を訪ねたり、といったことを絶えず繰り返し、技術の習得をし続けていました。すべてはお客さん(依頼主)に喜んでほしいから、と話していたのが印象的です。 また、自然のサイクルのなかに身を置くような生き方からも大きな影響を受けました。絹の状態を見て扱い方を考えたり、天気を見ながら作業工程を調整したり。人間と自然のやりとりが、父の作業場では当たり前のように見られました。こうした原体験が、職人性という言葉を導いてくれたように思います。 大島紬の修繕を生業とする由紀乃の父 在外の日本文化のプロデューサーとしての責任...
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創業から8年が経って | 私たちのこと Vol.1
こんにちは。Simply Native代表の松元由紀乃です。2016年にSimply Native(以下SN)がスタートしてから、8年が経ちました。昨年は当初からの夢だったフラグシップストアをオープンするなど、新たな展開を迎えています。このタイミングで、立ち上げから現在までを振り返りつつ、活動の根底にある想いを新たに見つめ直しました。その内容を、今回より8回にわけてお伝えします。 日本の生活工芸品を海外に伝える文化商社です 私たちは日本の生活工芸品を通じて、そこに宿る「職人性」を世界に伝える文化商社です。具体的には、オーストラリア(シドニー)と日本(千葉、京都、奄美大島)に拠点をもち、建築に使う内外装材から、食器や調理器具、食品や調味料まで、さまざまな日本のプロダクトを海外向けに販売しています。2016年に1つの商品から始まった事業ですが、現在はSKUでいうと2000以上の商品を扱っています。これまでに、87以上の日本の事業者さんの初めての海外進出のお手伝いをさせていただきました。 暮らしのなかにある生活工芸品 日本には、伝統工芸品や地場産業商材と呼ばれるものが多くありますが、SNで扱う商品は、それらをまるめて生活工芸品と呼んでいます。私たちが大事にしているのは、鑑賞の対象である美術品のようなものではなく、暮らしのなかに取り入れ、実際に使うことではじめて、その価値が輝きだすようなものたちです。作り手の手から、また自然と地続きになった暮らしから、“作る”というより “生まれる”という方がふさわしい。そうしたものには、「職人性」が宿っていると私たちは考えます。使い手はそうしたものを介して、作り手とつながることができ、またものの見方やひいては生活そのものが変わることもあるかもしれません。私たちはそうしたもののなかから、まだ世界に知られていないプロダクトを発掘したり、海外の方に届きやすいように商品化をして、オーストラリアをはじめ世界に届けています。 日本の伝統を意識した空間作りのお手伝い SNではそうした商品を、卸(BtoB)と小売(BtoC)の両軸で届けています。1つ目の卸売業では、主に壁紙用の和紙やパーテーション用の組子細工などの内外装材を、デザイン事務所や工務店向けに提案・販売しています。それらは商業物件や一般住居に使われますが、なかでも飲食店を新しく作る際は、全体的なコーディネイトをさせていただくことも多いです。その場合は、内外装材のみならず、食器、食材など、多岐にわたる商品を提案・販売し、時には店舗のコンセプト作りから伴走します。これまでに70以上の案件に携わってきました。ここ数年、オーストラリアの建築シーンではSustainable material(環境に負荷のない素材)であるかどうかが重視されており、そこに合致するものとして、日本の伝統的な素材やその根底にある伝統的な衣食住に価値を見出す人が増えています。 日本文化のショールームとしての店舗 2つ目の小売業では、一般のお客様向けに生活工芸品を販売したり、商品に紐づくワークショップを開催しています。拠点となるのが、シドニーの中心地・サリーヒルズに構えるフラッグシップストアです。日本の伝統的な居住空間を意識しながら、私たちが扱うプロダクトをふんだんに盛り込んだ空間は、ショールームの役割ももたせています。個人のお客様はもちろん、法人のお客様にとっても、商品選びのインスピレーションを得られる空間になっています。 大事なのは息の長いお付き合い 私は奄美大島で、大島紬の修復を手掛ける家に生まれました。父をはじめ、職人さんの姿を間近に育ちました。大学卒業後は経産省の中小企業支援機関に入構し、日本のものづくりやサービスを海外に紹介する部署で、全国の中小企業さんの海外進出のお手伝いをさせていただきました。 ...
創業から8年が経って | 私たちのこと Vol.1
こんにちは。Simply Native代表の松元由紀乃です。2016年にSimply Native(以下SN)がスタートしてから、8年が経ちました。昨年は当初からの夢だったフラグシップストアをオープンするなど、新たな展開を迎えています。このタイミングで、立ち上げから現在までを振り返りつつ、活動の根底にある想いを新たに見つめ直しました。その内容を、今回より8回にわけてお伝えします。 日本の生活工芸品を海外に伝える文化商社です 私たちは日本の生活工芸品を通じて、そこに宿る「職人性」を世界に伝える文化商社です。具体的には、オーストラリア(シドニー)と日本(千葉、京都、奄美大島)に拠点をもち、建築に使う内外装材から、食器や調理器具、食品や調味料まで、さまざまな日本のプロダクトを海外向けに販売しています。2016年に1つの商品から始まった事業ですが、現在はSKUでいうと2000以上の商品を扱っています。これまでに、87以上の日本の事業者さんの初めての海外進出のお手伝いをさせていただきました。 暮らしのなかにある生活工芸品 日本には、伝統工芸品や地場産業商材と呼ばれるものが多くありますが、SNで扱う商品は、それらをまるめて生活工芸品と呼んでいます。私たちが大事にしているのは、鑑賞の対象である美術品のようなものではなく、暮らしのなかに取り入れ、実際に使うことではじめて、その価値が輝きだすようなものたちです。作り手の手から、また自然と地続きになった暮らしから、“作る”というより “生まれる”という方がふさわしい。そうしたものには、「職人性」が宿っていると私たちは考えます。使い手はそうしたものを介して、作り手とつながることができ、またものの見方やひいては生活そのものが変わることもあるかもしれません。私たちはそうしたもののなかから、まだ世界に知られていないプロダクトを発掘したり、海外の方に届きやすいように商品化をして、オーストラリアをはじめ世界に届けています。 日本の伝統を意識した空間作りのお手伝い SNではそうした商品を、卸(BtoB)と小売(BtoC)の両軸で届けています。1つ目の卸売業では、主に壁紙用の和紙やパーテーション用の組子細工などの内外装材を、デザイン事務所や工務店向けに提案・販売しています。それらは商業物件や一般住居に使われますが、なかでも飲食店を新しく作る際は、全体的なコーディネイトをさせていただくことも多いです。その場合は、内外装材のみならず、食器、食材など、多岐にわたる商品を提案・販売し、時には店舗のコンセプト作りから伴走します。これまでに70以上の案件に携わってきました。ここ数年、オーストラリアの建築シーンではSustainable material(環境に負荷のない素材)であるかどうかが重視されており、そこに合致するものとして、日本の伝統的な素材やその根底にある伝統的な衣食住に価値を見出す人が増えています。 日本文化のショールームとしての店舗 2つ目の小売業では、一般のお客様向けに生活工芸品を販売したり、商品に紐づくワークショップを開催しています。拠点となるのが、シドニーの中心地・サリーヒルズに構えるフラッグシップストアです。日本の伝統的な居住空間を意識しながら、私たちが扱うプロダクトをふんだんに盛り込んだ空間は、ショールームの役割ももたせています。個人のお客様はもちろん、法人のお客様にとっても、商品選びのインスピレーションを得られる空間になっています。 大事なのは息の長いお付き合い 私は奄美大島で、大島紬の修復を手掛ける家に生まれました。父をはじめ、職人さんの姿を間近に育ちました。大学卒業後は経産省の中小企業支援機関に入構し、日本のものづくりやサービスを海外に紹介する部署で、全国の中小企業さんの海外進出のお手伝いをさせていただきました。 ...