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「伝える」は難しい。歯痒さと私たちの今後 | 私たちのこと vol.8

「伝える」は難しい。歯痒さと私たちの今後 | 私たちのこと vol.8

Shop Admin

  これからの伝え方について   Simply Nativeは日本のものづくりと海外を繋ぐミドルマンとして、商品のどういう価値をどう解釈し、伝えるか、を意識的に行なってきました。ここでは最終回として、私たちが目指すこれからの“伝え方”について考えたいと思います。   伝わりきれないもどかしさ そこにはこんな課題があります。店舗や打ち合わせでよく感じるのは、商品の制作過程だったりそこに宿る職人性を、限られた時間で伝えきるのは難しい、ということです。国や文化など、もともとの前提が違うことも理由かもしれません。ですが、受け取り手による部分も大きいのでは、と私たちは考えます。目には見えない商品背景は、経験や環境に裏打ちされた想像力を働かせることで受け取ることができるものだからです。 クリックひとつで商品が買えたり、世界の情報にアクセスできたり。現代では、何かを手に入れようと思い立ってから完了するまでの時間は一瞬です。そうした利便性の加速を当たり前のように受け入れる社会では、私たちの想像力も容易に失われてしまうように思います。想像力がなければ、本来素晴らしいものであるはずの職人性も、効率の悪さや不均一、などと悪い側面として捉えられてしまう。社会全体がそうならないためにも、私たちは職人性が立ち現れる制作過程をできるが限り可視化して伝えることで、お客さんの学びや気づきになれば、と考えています。   フラッグシップショップでの買いもの風景   体験へのアクセスを増やす 日本に漠然と良い印象をもってはいるけれど詳しくは知らない人が多いことを、店舗や商談を通じて日々感じます。今後も、日本の生活工芸やそこに注がれる文化へのアクセシビリティを増やしていくのがわたしたちの役目です。そのためにも、体験の幅が広がっていく仕掛けを考えています。 まずは人気の抹茶に光を当てて、調和の精神やおもてなしの心遣いといった茶道のコアコンセプトを学べる初心者向けのワークショップを開いています。   お香ワークショップ開催の様子 加えて、Simply Nativeの商品を使ったり味わったりできる、イートインスペースを店舗に計画中です。そこで肝となるのが、抹茶を挽く石臼です。導入が叶えば、店舗で挽きたての抹茶をいただくことができる上、量り売りで販売することもできます。機械製の石臼ですが、それでも1時間に40g(抹茶一椀は2g)しかできない手間と時間の贅沢さを体験していただけるのではないかと。そうしたことを今も店舗ではお伝えしていますが、実際に見て味わってもらうことで、お客さんに驚きをもって伝わるのかなと思います。   作り手と使い手の直接交流を増やす 中長期的には、作り手と使い手が直接出会う場を増やすことで、商品の背景を感じられる機会を作っていきたいです。例えば、日本の職人をシドニーに招いての”クラフトマンインレジデンス”。店舗でワークショップやデモンストレーションを行なってもらったり、クライアントの要望を直接聞きながらシドニーで制作してもらったり。お客さんやクライアントの商品理解が深まるのはもちろん、反対に、どんなものが求められているのかを直接海外のユーザーから聞くことは、作り手にとってのインスピレーションにもなります。 素材や設備が揃っていれば場所を変えても制作できる、という職人の強みを活かした企画です。   京都の陶芸を紹介するイベントの開催 一方では、シドニーのお客さんを連れて日本の職人を訪ねることも、将来的にやりたいことの一つです。現在、オーストラリアから日本へ旅行する人の多くの人が、宿泊や文化体験に費用をかけているという統計があります。そうした文化体験の一つとして、ものづくりの現場に訪ねるツアーを計画したいと考えています。これに限らず直接的な人的交流は積極的に行なっていきたいですし、そこから新しい展開が生まれると思います。   改めて思う、ミドルマンとしての存在意義 事業開始から8年が経ち、これまでに海外未進出の168社の販路開拓をお手伝いしましたが、そのなかで最も印象的だったのは、何人もの作り手が、新たな価値観に触れることで改めて自分の仕事に誇りをもつようになった、その変化に触れたことでした。 例えば、島根県浜田市で昔から茶道炭の炭焼きをされている職人の西森さん。後継者候補の中村さんの助けもあり、2017年からSimply...

「伝える」は難しい。歯痒さと私たちの今後 | 私たちのこと vol.8

Shop Admin

  これからの伝え方について   Simply Nativeは日本のものづくりと海外を繋ぐミドルマンとして、商品のどういう価値をどう解釈し、伝えるか、を意識的に行なってきました。ここでは最終回として、私たちが目指すこれからの“伝え方”について考えたいと思います。   伝わりきれないもどかしさ ...

まだ知られていないプロダクトを世界へ | 私たちのこと vol.7

まだ知られていないプロダクトを世界へ | 私たちのこと vol.7

Shop Admin

生活工芸品は海外から見つけにくい   社会のグローバル化と情報化が進み、今や世界のどんな場所の情報も物も容易に得られるようになりました。そんな時代にありながら、日本には、まだ海外では知られていない素晴らしい物語をもった素材やプロダクトが多数あります。日本は手仕事で作られたものを一般の人が生活のなかで使う「生活工芸」の文化が、先進国では珍しく色濃く残る国であるとお伝えしました。そうした生活工芸品は基本的に“顔が見える”範囲で普及しているため、大量生産の工業製品に比べて、海外から見つけるハードルが高いのです。Simply Nativeではそうしたものに日頃から目を向けながら、店舗や商談を通じてお客様にご紹介したり、オリジナルプロダクトを作ったりしています。その一部をご紹介します。   歴史、風土、心遣いが感じられるもの   店舗で人気があり、私自身の思い入れも強いのが、京都の柳桜園茶舗さんの抹茶です。茶道三千家の家元御用達の抹茶も扱っておられる1875年創業の日本茶専門店。抹茶は店の奥にある茶臼で挽き、店頭で量り売りをする創業当時と変わらないスタイルで抹茶を販売しており、また温度管理も徹底されているため、いつでも挽きたてで美味しい抹茶が購入できます。加えて、商品を選んでいると丁寧に説明をしてくださったり、「いかがですか?」とお茶を出してくれることも。そうした血の通った接客に触れるたびに、柳桜園さんがウェブサイトをもたず、自らの店舗と京都の百貨店でしか商品を販売していない理由も理解できるのです。Simply Nativeでの取り扱いをご相談したところ、大量生産ができないので少量になってしまうけど小さく長いお付き合いができたら、とお返事をいただけて。それは私他たちが求めていることでもあったので、とても嬉しかったのを覚えています。サリーヒルズの店舗のオープン時には、日本語と英語で店頭用のポップを作ってくださり商品と一緒に送ってくださいました。柳桜園さんの歴史や私たちとの経緯を、Simply Nativeのお客様に説明すると、「京都の老舗ならではの長く続く秘訣ね」と皆さん感心されます。 柳桜園茶舗さんの店頭 同じく京都のプロダクトで、Simply Nativeで販売させていただいているのが香老舗 薫玉堂さんのお香です。1594年の創業より430年以上に渡り、天然素材だけを用いる伝統的な調香技術を現代に伝えています。誰もが感激されるのが、特定の場所の風土や季節に着想を得て香りが作られていること。例えば「醍醐の桜」や「音羽の滝」と名付けられた線香。パッケージを開ける前から、実際にお香を焚いた時、またその余韻まで、何度も味わうことができます。桜や滝といった自然物を愛でたり、それらを香りで表し身につけようとしたり。古来の日本人と自然との関わりが感じられる商品です。   知識欲をくすぐるブランディング 日本の商品を、海外ニーズに合わせてブランディングし、オリジナルプロダクトを作ることもあります。オーストラリア人に好まれる香り、色、味わいなどを厳選するのはもちろん、シンプルで伝わりやすく、かつ知識欲をくすぐるようなネーミングにもこだわっています。 代表的なのが、日本古来のお茶を海外の人向けにした「Native Tea Collection」というシリーズ。例えば、茶道ではお釈迦様の誕生月(4月)のお茶事で振る舞う甘茶を、私たちの店舗では「Buddha Tea」という名前をつけました。また、福島県の猪苗代湖に自生する菱という水草の種を乾燥・焙煎させて作った、いなびし茶というお茶もあります。これについては、菱は忍者が逃げる時に地面に撒いたマキビシの原型だったということから「Ninja Tea」として販売しています。 Ninja Tea お茶と同様に、オリジナルのお菓子も人気です。京都の局屋さんという和菓子屋には、オーストラリアに原生する草花を象った和三盆の干菓子を作っていただきました。干菓子の型屋さんにお願いして、1年以上かけて木型から作っていただいたものです。 オーストラリアの花バンクシアを型取った干菓子 店舗の一周年の際には、オーストラリアへの感謝を込めて、オーストラリアを象徴するアイコンをデザインした組み飴を名古屋の老舗飴屋さんと共同で開発しました。 くみ飴 このように2国間の橋渡しになれるようなオリジナルプロダクトの開発は、今後も積極的に行っていきたいです。  ...

まだ知られていないプロダクトを世界へ | 私たちのこと vol.7

Shop Admin

生活工芸品は海外から見つけにくい   社会のグローバル化と情報化が進み、今や世界のどんな場所の情報も物も容易に得られるようになりました。そんな時代にありながら、日本には、まだ海外では知られていない素晴らしい物語をもった素材やプロダクトが多数あります。日本は手仕事で作られたものを一般の人が...

フラグシップストアから生まれる繋がり | 私たちのこと vol.6

フラグシップストアから生まれる繋がり | 私たちのこと vol.6

Shop Admin

店舗はものの背景を体験する場   Simply Nativeはシドニーの中心部であるサリーヒルズにフラッグシップショップを構えています。サリーヒルズは東京で言う表参道や青山のような場所。感度の高い人に人気のショッピングエリアであり、周囲には高級住宅街も広がります。そうした場所に、日本の風土や、作っている人たちの顔がわかる商品が並んでいる光景を見ると私自身も誇らしい気持ちになる、そんなエリアです。場所柄、お客様の多くは20〜40代の経済的にも余裕がある層です。彼らが、自分の暮らしを喜ばせてくれるものを求める時に、あるいは人と違う自分らしさを求める時に、私たちが取り扱わせてもらっている日本の生活工芸品がマッチするようです。基本的に商品は完成形でお客様の手へと渡るので、製作過程や作り手の思いなどの背景は伝わりにくいです。そのため私たちの店舗ではお客様自身が体験したり、実際に触れられる仕掛けを準備しています。   浮立面職人の中原さんによる木版制作   日本文化と生活のショールーム   そのひとつが、店舗の空間の作り方です。ショップ空間の中に日本の住空間をつくりました。土間、居間、坪庭、そして茶室や応接室などを設けています。空間ごとに適した商材を誂えたり配置することで、訪れる方にその空間性を体感してもらったり、空間作りの参考にしてもらえたらと思います。お茶室では一般向けのワークショップをよく行う一方で、応接室ではシェフの方に向けた試食会や建築家との打ち合わせを行うなど、多目的に活用しています。フラッグシップショップはお店の姿をしていますが、日本の風土や私たちの事業の在り方を、五感で受け取っていただく、ショールームのような場所でもあります。 日本の学び合うコミュニティに倣う   私個人としては茶道のお稽古に10年以上通っていますが、そうした芸事に限らず、日本では古くから同じ集落に住む人同士による助け合いが当たり前に作られてきたように思います。例えば、集落のインフラを地域住民が主体となり、話し合いを重ねながら作り維持していく「普請」の考え方などは、相互扶助であり、共に学ぶ活動でもあると考えます。店舗ではお抹茶やお香、和紙などを題材にさまざまなワークショップを行っていますが、そうした学び合いのコミュニティを醸成する機会になれば、と思っています。   生け花ワークショップの様子 ワークショップは「感覚」と「瞑想」   ワークショップのなかでも、現在4ヶ月待ちというくらい人気があるのが「茶歌舞伎」です。茶歌舞伎はもともと茶道における伝統的なお茶遊びなのですが、その内容を抹茶に馴染みのない方でも楽しめるようにアレンジしワークショップに仕立てています。グレードの違う3種類のお抹茶(料理用抹茶、普段使い用、特別な日用)を飲み、それぞれの違いについて学んだ後に、最後に飲んでもらう抹茶を当ててもらうという内容。楽しみながら歴史や効能や味の違いについて学んでもらえます。他にも香料を混ぜ合わせて自分好みのお線香を作れるワークショップも人気があります。参加した方からはSensory(感覚的)だね、とかMeditative(瞑想的)だね、と言われることが多く、そこが人気の理由だと思っています。人の感覚に訴える要素は国や人種を越えて伝わるものですし、また現代においては自分を内省する時間を必要としている人も多いのではないでしょうか。   茶歌舞伎ワークショップの様子 日豪の作り手を繋ぐ   最近では、店舗が日本の職人とオーストラリアのデザイナーを繋ぐ場にもなっています。2024年3月には愛媛県の和紙作家さんをお招きして和紙作りのワークショップを開きましたが、同じタイミングで、オーストラリアのデザインファーム数軒に声をかけ興味をもってくれた業者さんたちとの商談も行いました。オリジナル製作を依頼した木版 現在は日本の職人とオーストラリアのデザイナーに、Simply Nativeのオリジナルブランドティーのパッケージを共同製作してもらっているところです。佐賀県の浮立面職人の中原恵峰さん・博和さん親子に木版製作を依頼し、全体レイアウトとカラーデザインをオーストラリア人染色家のMelinda Healにお願いすることで、抹茶が日本に伝わった背景やストーリーを表現していただきました。両者の良さが生かされたコラボレーションになったと思います。このように店舗は日豪をまたいで、使い手と作り手だけでなく、作り手同士を繋ぐ場でもあります。今後もこうした場の可能性を広げていきます。   木版の原画を生かしたパッケージデザインイメージ   Text...

フラグシップストアから生まれる繋がり | 私たちのこと vol.6

Shop Admin

店舗はものの背景を体験する場   Simply Nativeはシドニーの中心部であるサリーヒルズにフラッグシップショップを構えています。サリーヒルズは東京で言う表参道や青山のような場所。感度の高い人に人気のショッピングエリアであり、周囲には高級住宅街も広がります。そうした場所に、日本の風...

自然環境と調和する空間づくり | 私たちのこと vol.5

自然環境と調和する空間づくり | 私たちのこと vol.5

Yukino Matsumoto

日本の伝統的空間の魅力   ここ数年、オーストラリアでは日本の伝統的な空間やそれを生み出す内外装材への注目が高まっています。例えば和室や布団の素晴らしさ、外と内を緩やかにつなぐ縁側、光の陰影を作り出す障子、また空間を完全に閉ざさない襖などが挙げられます。そのような日本に古くから伝わる生活のなかの美意識を自身の日常空間に取り入れたい方が増えているのです。飲食店をはじめとする商業物件のケースには前回でも触れましたが(→Vol.4)今回は一般住居の事例も交えながらご紹介したいと思います。   奈良県吉野にある旅館で撮影した部屋からの風景   伝統素材を使ったカスタムメイド   主に私たちが取り扱わせていただいているのは、畳や手漉き和紙、組子細工やヒノキの一枚板などの伝統内装材と呼ばれる素材です。これらの素材は、単なる装飾にとどまらず、空間に深い意味を与え、使う人々に心地よさをもたらします。建国してまだ100年程の若い国であるオーストラリアでは、ものづくりの文化が根付いているわけではなく、労働環境の規制や働き方の慣習なども影響し、伝統的な職人技を生かした製品は多くありません。そんななか、日本の職人が手掛ける商材は、その品質の高さから大きな驚きをもって受け入れられています。   愛媛県内子町にある和紙メーカー五十崎社中   内装素材として特に注目を集めているのは、日本の木材です。商業施設だけでなく一般住宅においても、日本の木材は人気が高く、その美しい木目と豊かな香りが空間に温かみをもたらす役割を果たしています。現代的な空間に和の美しさを取り入れ、調和させる事例が増えています。 他にも過去には、シドニーのパームビーチにある別荘の寝室に設置するために、パームビーチの風景を組子のパネルで表現してほしい、という注文を受けました。寝室を自然に近い環境に整えたいという施主の意向でヒノキ素材の組子細工が選ばれたようです。組子を使ったオーダーメイドの作品制作、とも言えるこの事例では、完成形に正解はありません。「この部分はもう少し光を取り入れてほしい」などというクライアントの細かな要望を汲み、修正を幾度か行った後に、ようやく完成させることができました。   組子細工を使ったパネル制作   空間に現れる作り手の自然観   私たちが大事にしている職人性(→Vol.2)ともつながる部分ですが、空間作りにおいても商材の背景に人間味を感じられることが求められているように思います。素材の質や製造方法はもちろんですが、それを生み出す作り手の想いや地域のストーリーに価値を見出すお客様が多いと感じます。単なる機能性や見た目の美しさを超えて、商材から作り手の「意識」のようなものを感じとり、自身の生活空間がより豊かになることを求めているのではないでしょうか。そのため、私たちもプロジェクトの完成まで、作り手と使い手それぞれの温度感が伝わるようなコミュニケーションを大切にしています。床柱やヒノキの一枚板に代表されるような木材や、インテリアとしても人気の茶道炭は、空間づくりにおいて人気の商材のひとつです。日本では、数世代先を見据えて計画的に山を拓き、無理のない植林を行うなど、作り手のなかに自然と共存する意識が根付いています。そうした職人の自然観や生き様のようなものが立ち現れてくるものが好まれるようです。 滋賀県での木樽づくりの風景 サステナビリティという根底   現代においては、建築素材についても大量生産・大量廃棄が主流です。機械で大量に作り、売れ残っても破棄して、また新しいものを作る。産業廃棄物も大量に出ます。そんななかで、例えば私たちがお付き合いしている陶器タイルや、和紙、竹を取り扱うメーカーさんは、地元の土を使って、注文が入った分だけ作ります。ロスがそもそも出ない生産方法です。お客さんからすると既製品よりも割高になることもあり、注文から3ヶ月程待つ必要がありますが、そういうことはさほど問題ではないようです。それ以上に、適切な量を作ることや、空間に合わせた柔軟な調整、また素材の安全性などに着目し、彼らが身近な自然のサイクルのなかで無駄のないものづくりをしていることに深く共感してくれるのです。 商材の提案時には「工場の電気はソーラーなの?」とか「製造過程でどれ程の量の水をどこから調達するの?」などと聞かれることもしばしば。環境負荷について気にされる方が、私たちのお客さんには多いです。 これらを包括する「サステナブル」という概念はもはや新しいものではなく、オーストラリアでも特に建築に対しては自然に考慮すべき要素となってきています。そうした社会のなかで、自ずから持続可能性を満たしている伝統商材が結果的に好まれているのです。   Text & Edit by...

自然環境と調和する空間づくり | 私たちのこと vol.5

Yukino Matsumoto

日本の伝統的空間の魅力   ここ数年、オーストラリアでは日本の伝統的な空間やそれを生み出す内外装材への注目が高まっています。例えば和室や布団の素晴らしさ、外と内を緩やかにつなぐ縁側、光の陰影を作り出す障子、また空間を完全に閉ざさない襖などが挙げられます。そのような日本に古くから伝わる...

日本の文化商社としてのスタート | 私たちのこと vol.4

日本の文化商社としてのスタート | 私たちのこと vol.4

Yukino Matsumoto

“日本の文化商社”の役割とは?   Simply Nativeが生活工芸品を通じた日本の文化商社だということはお伝えしましたが、その在り方は自然な流れで今の姿に辿り着いたように思います。事業開始から振り返りつつ、今求められる私たちの役割について考えてみたいと思います。   石州瓦を耐熱食器として   Simply Nativeではインテリア商材から食材まで幅広い商品を扱っていますが、始めは一つの瓦からスタートしました。2016年。島根県石見地方の地場産業に石州瓦という粘土瓦があって。耐火度の高い良質な粘土を1200度以上の高温で焼き上げるという世界でも珍しい瓦で、日本海に面し、冬は雪深い石見地方では、凍害や塩害にも強いこの瓦が重宝されてきました。そんな地域の事業者さんのなかでも、裏山で採れる来待石から作る昔ながらの釉薬にこだわって、さらに1350度という世界一とも言われる高温で焼き締めて瓦やタイル製品を作っているのが亀谷窯業さんです。耐火度の高い瓦は直火もOK。この特性を生かして、耐熱食器として、BBQ文化があるオーストラリアで販路開拓できないか、と亀谷さんと懇意にしている兵庫県小野市の地場産業である播州刃物のブランディングや職人育成を手がけるシーラカンス食堂さんから相談を受けたのが始まりでした。 石州瓦の亀谷窯業 シーラカンス食堂さん、商品デザインを担当するFUDO DESIGNさん、そして亀谷さんと私とで、海外販路開拓に向けたチームを組みました。私は早速、亀谷さんのタイル製品と同素材で作った耐熱食器のサンプルを大きなバッグに忍ばせ、シドニー中の飲食店を周りました。蓋を開けてみると、テーブルウェアとして使ってみたいと言ってくださる飲食店の方は多かった。結果的にタイルが2件、耐熱食器としての契約が3件決まりました。 亀谷さんのタイルは自分で採集した地元の土を使う上に手作業で焼き上げるので、1枚1枚表情が違います。そうした機械製には出せない風合いや釉薬の揺らぎが料理人や建築家に評価されたんです。彼らは常にオリジナリティや特別感を求めているので、そうした商品のムラを面白みだと捉えてくれるのです。 おまけに、彼らは亀谷さんの生き方そのものにも興味津々でした。亀谷さんは仕事の忙しい時でも、春は早朝からタケノコを採りに裏山へ入ったり、夏は近くの海に海藻を採りに行ったり。周りの環境を積極的に楽しんで、自然に溶け込むように暮らしている。彼にとっては瓦づくりの仕事も、こうした生きるための営みの一環としてあるように思いました。彼らが、そうしたものが生まれる背景を「もっと聞かせて」と言っていたのが印象的です。   新規性のある日本的なもの 以降、飲食店向けに食器類の卸を広げていきましたが、オーストラリアで日本食ブームが広がるなかで「日本にインスパイアされたことをしたい」「けれど何が正解かわからない」というオーナーさんが多いことがわかってきました。彼らの方向性は曖昧ながらも、何か新しいことをしたい、という思いが強い。そうした要望に合わせて、商品販売だけでなく、コンセプト作りからブランディング、メニュー開発まで、トータルコーディネイトというかたちでプロジェクトに入ることが多くなっていきました。 一例としては、オーストラリアの有名なシェフMatt MoranがプロデュースしたRekōdoという日本食レストランをトータルコーディネイトしました。そこでは建築のコンセプト作りに始まり、メニュー提案、そして内装用商材やテーブルウェアや食材の卸しを行なっています。同様に、近年出店するオーナーに共通するのは、日本的なことをしたいが新規性がほしい、というリクエスト。そこにどこまで応えられるかが求められているのです。 Rekōdoの店内 ローカルの客層に合わせて抹茶をセレクト もう10年以上ブームが続いている抹茶メニューにも、新規性が求められています。シドニーカフェMoon & Backから抹茶ラテを提供したいという相談を受けた時には10種以上の抹茶を一緒にテイスティングし、そのうち価格と客層に合ったカジュアルなグレードの抹茶を選んでいただき、今も継続して卸しています。一方、世界的にも知られるバー Maybe Sammyには、マティーニに抹茶を入れたオリジナルカクテル「抹茶ティーニ」を提案したところ気に入ってもらえて、そこに使うグレードの高い抹茶を提供しています。 一口に抹茶と言っても産地・種類・グレード・テイストは様々。「苦味が強い」「旨味が強い」といったそれぞれのテイストを踏まえつつ、「アジア系はこういうテイスティングが好き」といった店の客層の好みまで把握した上で最適のものを提案できる事業者はオーストラリアではなかなかいません。そんなところでも私たちがお役に立てているかなと思います。 Maybe Sammy の抹茶ドリンク...

日本の文化商社としてのスタート | 私たちのこと vol.4

Yukino Matsumoto

“日本の文化商社”の役割とは?   Simply Nativeが生活工芸品を通じた日本の文化商社だということはお伝えしましたが、その在り方は自然な流れで今の姿に辿り着いたように思います。事業開始から振り返りつつ、今求められる私たちの役割について考えてみたいと思います。   石州瓦を耐熱食...

日本の生活工芸品を正しく届けたい | 私たちのこと vol.3

日本の生活工芸品を正しく届けたい | 私たちのこと vol.3

Yukino Matsumoto

  なぜオーストラリア?   Simply Nativeはオーストラリアを拠点に事業を展開していますが、「なぜオーストラリアなの?」と聞かれることも多いです。これまでこの国は、工芸品の輸出先としてさほど注目されてこなかったからです。では、なぜ私はこの国を選んだのか? アメリカやフランスではなく。今回はその話をしますね。   日本の生活工芸品を正しく届けたい   中小機構を辞め、独立に向けて動いていた頃。欧米では、日本製品の小売り展開というマーケットは既に開拓されていたので、新たに繰り出しても付加価値は提供できないように思いました。そこで私が目を向けたのがオーストラリアでした。大学時代にオーストラリアやニュージーランドに留学していて、市場の可能性を感じていたのです。2015年、テストマーケティングで訪れたシドニーで感じたのが、この国には日本の工芸を正しく届ける余地がある、ということでした。当時から既に、日本の工芸においては、外国製の安価なコピー品が先に海外に出回ってしまうケースはよくあるのですが、オーストラリアではそうした事例は欧米に比べてまだ少なく、そこに私が開拓する余地を感じたのです。この国に、日本の工芸や、その背景にある文化や人の暮らしについて、正しく情報を届けたい。そんな使命感とともに、オーストラリアでの事業展開を決めました。 単なる取引先にとどまらないパートナーシップ   異文化を受け入れる国民性 初めてオーストラリアを訪れた時に驚いたのが、おおらかで他者に対して寛容な人が多い、ということでした。ゆえに国籍や年齢や立場が違っても関係なく、純粋に人そのものを見てコミュニケーションをとろうとします。それはビジネスの間柄でも変わりません。スタッフとお客さんという立場を超えた友達のような関係性がすぐにできます。おしゃべりが弾むと、ファーストネームを聞かれ、次からはもうファーストネームで呼び合う仲になります。自家製ジャムやケーキのお裾分けをしにきてくれることもあります。 かつて私がヨーロッパの見本市に出展した際には、名刺交換さえなかなかさせてもらえず、彼らとは数年間付き合った後にようやく信頼関係が築けるような印象を受けました。ですがここオーストラリアでは、アジア人の移民で、それもまだ若い私のような人間であっても、取り扱う商品の質や価値をきちんと説明できれば、比較的すぐに歩み寄ることができます。 そうしたやりとりはとても人間らしく居心地が良いものですが、もともと移民の多い国であることと関係しているのかもしれません。結果的に、そんな国民性が日本の生活工芸品のような異文化を受け入れる力になっているように思います。 和気藹々とワークショップを楽しむオーストラリアの人たち   ウェルビーイングと日本の生活工芸品   この国では、ウェルビーイングの考えが社会に根付いているように感じます。そこでは、心も身体もいかに心地よく過ごせるか、が重視されます。仕事は人生の一部という考えで、決して無理しすぎず、家族や友人との時間、また自分自身との時間を大切にします。そうしたライフスタイルのなかで、日本の生活工芸品が好まれているのです。 例えば1人で過ごす時間なら、朝のヨガを日課にしているお客さんは「30分という長さがぴったり」ということでお線香を愛用してくれていますし、また友人を家に招いて過ごす時には、こだわりのテーブルウェアなどが活躍します。自分の時間も、大切な誰かと過ごす時間も大事にしたい。そのためには自分がご機嫌でいられることが欠かせません。そこに日本の生活工芸品が選ばれ、生活に取り入れられているのは、自然なことのように思います。 特に好まれるのは、人の手の存在を感じさせるものです。器なら、手捻りだったり、釉薬の「ゆらぎ」があるものが好まれたり、もしくは指紋が微かに残っているようなものが面白がられます。「誰が、どんな人が作っているの?」とお客さんによく聞かれます。人懐っこく、人間味があふれるオーストラリアの人々は、工芸のなかに見出す作り手にも思いを馳せ、親しみを感じているのかもしれません。一つの生活工芸品を通して、さまざまな豊かさを享受することができる。ウェルビーイングの国で、日本の生活工芸品が注目される理由です。   オーストラリアから世界へ   一般的に日本の職人の世界においてはオーストラリアはまだ馴染みの薄いマーケットと考えられていますが、私自身はオーストラリアの大きな可能性を感じています。一つには、オーストラリアからのさらなる展開にあります。孤立した大陸ゆえ、この国以外の展開はイメージしにくいと思いますが、販売先がこの国から海外へ広がっていった商品が多数あります 英語圏かつ、移民が多い国、というのが大きな理由です。例えばBtoBなら、オーストラリアの案件で繋がった方が、他国での案件に使いたいということで、私たちの商品を発注してくれることもあります。BtoCなら、私たちのオンラインショップには世界各国からのアクセスがあるので、そこを通じて世界各地に販売することができます。Simply Nativeはオーストラリアが拠点ですが、ここを起点に販売先が世界中に広がっていく、私たちがその一助になっていることにやりがいと喜びを感じています。 ロサンゼルスへの商品展開...

日本の生活工芸品を正しく届けたい | 私たちのこと vol.3

Yukino Matsumoto

  なぜオーストラリア?   Simply Nativeはオーストラリアを拠点に事業を展開していますが、「なぜオーストラリアなの?」と聞かれることも多いです。これまでこの国は、工芸品の輸出先としてさほど注目されてこなかったからです。では、なぜ私はこの国を選んだのか? アメリカやフランスではなく...