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SNにとっての職人とは | 私たちのこと vol.2

SNにとっての職人とは | 私たちのこと vol.2

Yukino Matsumoto

    「職人性」への想い   Simply Nativeの商品でもっとも大事にしているのが、vol.1でも触れた「職人性」です。私たちは商品を選ぶ時、そこに職人性が宿っているかどうか、をひとつの基準にしています。Simply Nativeに関わってくださる全ての方に共有でき、かつ共感もしていただける思想として、この言葉を造りました。 木彫り職人の中原氏 使うことで価値が生まれるもの   私たちが扱うのは生活工芸品です。英語では〈Everyday crafts〉や〈Lifestyle crafts〉などと言われることが多いですが、私たちはあえて〈Thoughtful crafts for everyday living〉と呼んでいます。生活のなかで使われる実用品にこそ、美しさや芸術性が宿る。そうした生活工芸に光を当てていきたいという想いが、この言葉に込められています。手作業のみで作られたもの、伝統工芸品、地場産業商品に限らず、半機械製品もあれば、食品もあり、また地域内の生活必需品として作られてきたものなどもあり、ジャンルや生産規模はさまざまです。そのうえで一つ共通しているのは、生活のなかで使うもの、であることです。美術作品のように飾って鑑賞の対象になるものではなく、人の手によって使われ、時に消耗するようなもの。そうした使う体験・時間・空間を介して初めて、価値が生みだされるものです。   作り手の思想と経験の集積   職人性が宿ったものは、使い手のものの見方に刺激を与えたり、生活に潤いを加えたり、時にそれらを大きく変えてしまうほどの力をもっています。日本は、そうした生活工芸品が古くより暮らしのなかで使われてきた、世界的にも珍しい国なのです。 では、その職人性とはどんなものでしょうか。私たちは、生き方における思想や姿勢だと考えます。まずは、自分の仕事に誇りをもち、理想に向かって前進し続けること。もう一つは、自身を自然の一部として理解すること。地域の天然素材を用いた造作がものづくりの出発点であるように、作り手のなかには、地域の自然環境を、自らを含む生態系として捉えている方も多いです。そして最後は、時代を超えた他者との調和です。世代を超えて受け継がれた技術や知恵が、その媒介となります。そうした作り手の思想や経験の集積が、私たちが考える職人性です。   職人性の原体験は父   職人性という言葉から、頭に浮かぶのは父の姿です。父は奄美大島に伝わる大島紬の修繕の職人です。70代半ばで後継者がいないので、奄美で最後の職人になるかもしれません。大島紬の製造は分業制で、30~40の工程を経て完成します。絹糸作りから製品化まで、長い時には1年半をかけ、さまざまな作り手のもとを渡っていくので、その間に小さなひっかけ傷や汚れがつくことがあります。それらを綿密に修復するのが父の仕事です。 父は、染み抜きの実験をしたり、新たなクリーニング法を考えるために別の産地を訪ねたり、といったことを絶えず繰り返し、技術の習得をし続けていました。すべてはお客さん(依頼主)に喜んでほしいから、と話していたのが印象的です。 また、自然のサイクルのなかに身を置くような生き方からも大きな影響を受けました。絹の状態を見て扱い方を考えたり、天気を見ながら作業工程を調整したり。人間と自然のやりとりが、父の作業場では当たり前のように見られました。こうした原体験が、職人性という言葉を導いてくれたように思います。 大島紬の修繕を生業とする由紀乃の父  在外の日本文化のプロデューサーとしての責任...

SNにとっての職人とは | 私たちのこと vol.2

Yukino Matsumoto

    「職人性」への想い   Simply Nativeの商品でもっとも大事にしているのが、vol.1でも触れた「職人性」です。私たちは商品を選ぶ時、そこに職人性が宿っているかどうか、をひとつの基準にしています。Simply Nativeに関わってくださる全ての方に共有でき、かつ共感もしていただける思想として、この言葉を造りました。 木彫り職人の中原氏 使うことで価値が生まれるもの   私たちが扱うのは生活工芸品です。英語では〈Everyday crafts〉や〈Lifestyle crafts〉などと言われることが多いですが、私たちはあえて〈Thoughtful crafts for everyday living〉と呼んでいます。生活のなかで使われる実用品にこそ、美しさや芸術性が宿る。そうした生活工芸に光を当てていきたいという想いが、この言葉に込められています。手作業のみで作られたもの、伝統工芸品、地場産業商品に限らず、半機械製品もあれば、食品もあり、また地域内の生活必需品として作られてきたものなどもあり、ジャンルや生産規模はさまざまです。そのうえで一つ共通しているのは、生活のなかで使うもの、であることです。美術作品のように飾って鑑賞の対象になるものではなく、人の手によって使われ、時に消耗するようなもの。そうした使う体験・時間・空間を介して初めて、価値が生みだされるものです。   作り手の思想と経験の集積   職人性が宿ったものは、使い手のものの見方に刺激を与えたり、生活に潤いを加えたり、時にそれらを大きく変えてしまうほどの力をもっています。日本は、そうした生活工芸品が古くより暮らしのなかで使われてきた、世界的にも珍しい国なのです。 では、その職人性とはどんなものでしょうか。私たちは、生き方における思想や姿勢だと考えます。まずは、自分の仕事に誇りをもち、理想に向かって前進し続けること。もう一つは、自身を自然の一部として理解すること。地域の天然素材を用いた造作がものづくりの出発点であるように、作り手のなかには、地域の自然環境を、自らを含む生態系として捉えている方も多いです。そして最後は、時代を超えた他者との調和です。世代を超えて受け継がれた技術や知恵が、その媒介となります。そうした作り手の思想や経験の集積が、私たちが考える職人性です。   職人性の原体験は父   職人性という言葉から、頭に浮かぶのは父の姿です。父は奄美大島に伝わる大島紬の修繕の職人です。70代半ばで後継者がいないので、奄美で最後の職人になるかもしれません。大島紬の製造は分業制で、30~40の工程を経て完成します。絹糸作りから製品化まで、長い時には1年半をかけ、さまざまな作り手のもとを渡っていくので、その間に小さなひっかけ傷や汚れがつくことがあります。それらを綿密に修復するのが父の仕事です。 父は、染み抜きの実験をしたり、新たなクリーニング法を考えるために別の産地を訪ねたり、といったことを絶えず繰り返し、技術の習得をし続けていました。すべてはお客さん(依頼主)に喜んでほしいから、と話していたのが印象的です。 また、自然のサイクルのなかに身を置くような生き方からも大きな影響を受けました。絹の状態を見て扱い方を考えたり、天気を見ながら作業工程を調整したり。人間と自然のやりとりが、父の作業場では当たり前のように見られました。こうした原体験が、職人性という言葉を導いてくれたように思います。 大島紬の修繕を生業とする由紀乃の父  在外の日本文化のプロデューサーとしての責任...

創業から8年が経って | 私たちのこと Vol.1

創業から8年が経って | 私たちのこと Vol.1

Yukino Matsumoto

こんにちは。Simply Native代表の松元由紀乃です。2016年にSimply Native(以下SN)がスタートしてから、8年が経ちました。昨年は当初からの夢だったフラグシップストアをオープンするなど、新たな展開を迎えています。このタイミングで、立ち上げから現在までを振り返りつつ、活動の根底にある想いを新たに見つめ直しました。その内容を、今回より8回にわけてお伝えします。     日本の生活工芸品を海外に伝える文化商社です   私たちは日本の生活工芸品を通じて、そこに宿る「職人性」を世界に伝える文化商社です。具体的には、オーストラリア(シドニー)と日本(千葉、京都、奄美大島)に拠点をもち、建築に使う内外装材から、食器や調理器具、食品や調味料まで、さまざまな日本のプロダクトを海外向けに販売しています。2016年に1つの商品から始まった事業ですが、現在はSKUでいうと2000以上の商品を扱っています。これまでに、87以上の日本の事業者さんの初めての海外進出のお手伝いをさせていただきました。   暮らしのなかにある生活工芸品   日本には、伝統工芸品や地場産業商材と呼ばれるものが多くありますが、SNで扱う商品は、それらをまるめて生活工芸品と呼んでいます。私たちが大事にしているのは、鑑賞の対象である美術品のようなものではなく、暮らしのなかに取り入れ、実際に使うことではじめて、その価値が輝きだすようなものたちです。作り手の手から、また自然と地続きになった暮らしから、“作る”というより “生まれる”という方がふさわしい。そうしたものには、「職人性」が宿っていると私たちは考えます。使い手はそうしたものを介して、作り手とつながることができ、またものの見方やひいては生活そのものが変わることもあるかもしれません。私たちはそうしたもののなかから、まだ世界に知られていないプロダクトを発掘したり、海外の方に届きやすいように商品化をして、オーストラリアをはじめ世界に届けています。   日本の伝統を意識した空間作りのお手伝い   SNではそうした商品を、卸(BtoB)と小売(BtoC)の両軸で届けています。1つ目の卸売業では、主に壁紙用の和紙やパーテーション用の組子細工などの内外装材を、デザイン事務所や工務店向けに提案・販売しています。それらは商業物件や一般住居に使われますが、なかでも飲食店を新しく作る際は、全体的なコーディネイトをさせていただくことも多いです。その場合は、内外装材のみならず、食器、食材など、多岐にわたる商品を提案・販売し、時には店舗のコンセプト作りから伴走します。これまでに70以上の案件に携わってきました。ここ数年、オーストラリアの建築シーンではSustainable material(環境に負荷のない素材)であるかどうかが重視されており、そこに合致するものとして、日本の伝統的な素材やその根底にある伝統的な衣食住に価値を見出す人が増えています。     日本文化のショールームとしての店舗   2つ目の小売業では、一般のお客様向けに生活工芸品を販売したり、商品に紐づくワークショップを開催しています。拠点となるのが、シドニーの中心地・サリーヒルズに構えるフラッグシップストアです。日本の伝統的な居住空間を意識しながら、私たちが扱うプロダクトをふんだんに盛り込んだ空間は、ショールームの役割ももたせています。個人のお客様はもちろん、法人のお客様にとっても、商品選びのインスピレーションを得られる空間になっています。     大事なのは息の長いお付き合い   私は奄美大島で、大島紬の修復を手掛ける家に生まれました。父をはじめ、職人さんの姿を間近に育ちました。大学卒業後は経産省の中小企業支援機関に入構し、日本のものづくりやサービスを海外に紹介する部署で、全国の中小企業さんの海外進出のお手伝いをさせていただきました。    ...

創業から8年が経って | 私たちのこと Vol.1

Yukino Matsumoto

こんにちは。Simply Native代表の松元由紀乃です。2016年にSimply Native(以下SN)がスタートしてから、8年が経ちました。昨年は当初からの夢だったフラグシップストアをオープンするなど、新たな展開を迎えています。このタイミングで、立ち上げから現在までを振り返りつつ、活動の根底にある想いを新たに見つめ直しました。その内容を、今回より8回にわけてお伝えします。     日本の生活工芸品を海外に伝える文化商社です   私たちは日本の生活工芸品を通じて、そこに宿る「職人性」を世界に伝える文化商社です。具体的には、オーストラリア(シドニー)と日本(千葉、京都、奄美大島)に拠点をもち、建築に使う内外装材から、食器や調理器具、食品や調味料まで、さまざまな日本のプロダクトを海外向けに販売しています。2016年に1つの商品から始まった事業ですが、現在はSKUでいうと2000以上の商品を扱っています。これまでに、87以上の日本の事業者さんの初めての海外進出のお手伝いをさせていただきました。   暮らしのなかにある生活工芸品   日本には、伝統工芸品や地場産業商材と呼ばれるものが多くありますが、SNで扱う商品は、それらをまるめて生活工芸品と呼んでいます。私たちが大事にしているのは、鑑賞の対象である美術品のようなものではなく、暮らしのなかに取り入れ、実際に使うことではじめて、その価値が輝きだすようなものたちです。作り手の手から、また自然と地続きになった暮らしから、“作る”というより “生まれる”という方がふさわしい。そうしたものには、「職人性」が宿っていると私たちは考えます。使い手はそうしたものを介して、作り手とつながることができ、またものの見方やひいては生活そのものが変わることもあるかもしれません。私たちはそうしたもののなかから、まだ世界に知られていないプロダクトを発掘したり、海外の方に届きやすいように商品化をして、オーストラリアをはじめ世界に届けています。   日本の伝統を意識した空間作りのお手伝い   SNではそうした商品を、卸(BtoB)と小売(BtoC)の両軸で届けています。1つ目の卸売業では、主に壁紙用の和紙やパーテーション用の組子細工などの内外装材を、デザイン事務所や工務店向けに提案・販売しています。それらは商業物件や一般住居に使われますが、なかでも飲食店を新しく作る際は、全体的なコーディネイトをさせていただくことも多いです。その場合は、内外装材のみならず、食器、食材など、多岐にわたる商品を提案・販売し、時には店舗のコンセプト作りから伴走します。これまでに70以上の案件に携わってきました。ここ数年、オーストラリアの建築シーンではSustainable material(環境に負荷のない素材)であるかどうかが重視されており、そこに合致するものとして、日本の伝統的な素材やその根底にある伝統的な衣食住に価値を見出す人が増えています。     日本文化のショールームとしての店舗   2つ目の小売業では、一般のお客様向けに生活工芸品を販売したり、商品に紐づくワークショップを開催しています。拠点となるのが、シドニーの中心地・サリーヒルズに構えるフラッグシップストアです。日本の伝統的な居住空間を意識しながら、私たちが扱うプロダクトをふんだんに盛り込んだ空間は、ショールームの役割ももたせています。個人のお客様はもちろん、法人のお客様にとっても、商品選びのインスピレーションを得られる空間になっています。     大事なのは息の長いお付き合い   私は奄美大島で、大島紬の修復を手掛ける家に生まれました。父をはじめ、職人さんの姿を間近に育ちました。大学卒業後は経産省の中小企業支援機関に入構し、日本のものづくりやサービスを海外に紹介する部署で、全国の中小企業さんの海外進出のお手伝いをさせていただきました。    ...