日本の生活工芸品を正しく届けたい | 私たちのこと vol.3

 

なぜオーストラリア?

 

Simply Nativeはオーストラリアを拠点に事業を展開していますが、「なぜオーストラリアなの?」と聞かれることも多いです。これまでこの国は、工芸品の輸出先としてさほど注目されてこなかったからです。
では、なぜ私はこの国を選んだのか? アメリカやフランスではなく。今回はその話をしますね。

 

日本の生活工芸品を正しく届けたい

 

中小機構を辞め、独立に向けて動いていた頃。欧米では、日本製品の小売り展開というマーケットは既に開拓されていたので、新たに繰り出しても付加価値は提供できないように思いました。そこで私が目を向けたのがオーストラリアでした。
大学時代にオーストラリアやニュージーランドに留学していて、市場の可能性を感じていたのです。2015年、テストマーケティングで訪れたシドニーで感じたのが、この国には日本の工芸を正しく届ける余地がある、ということでした。
当時から既に、日本の工芸においては、外国製の安価なコピー品が先に海外に出回ってしまうケースはよくあるのですが、オーストラリアではそうした事例は欧米に比べてまだ少なく、そこに私が開拓する余地を感じたのです。この国に、
日本の工芸や、その背景にある文化や人の暮らしについて、正しく情報を届けたい。
そんな使命感とともに、オーストラリアでの事業展開を決めました。


単なる取引先にとどまらないパートナーシップ

 


異文化を受け入れる国民性

初めてオーストラリアを訪れた時に驚いたのが、おおらかで他者に対して寛容な人が多い、ということでした。ゆえに国籍や年齢や立場が違っても関係なく、純粋に人そのものを見てコミュニケーションをとろうとします。それはビジネスの間柄でも変わりません。スタッフとお客さんという立場を超えた友達のような関係性がすぐにできます。おしゃべりが弾むと、ファーストネームを聞かれ、次からはもうファーストネームで呼び合う仲になります。自家製ジャムやケーキのお裾分けをしにきてくれることもあります。

かつて私がヨーロッパの見本市に出展した際には、名刺交換さえなかなかさせてもらえず、彼らとは数年間付き合った後にようやく信頼関係が築けるような印象を受けました。ですがここオーストラリアでは、アジア人の移民で、それもまだ若い私のような人間であっても、取り扱う商品の質や価値をきちんと説明できれば、比較的すぐに歩み寄ることができます。

そうしたやりとりはとても人間らしく居心地が良いものですが、もともと移民の多い国であることと関係しているのかもしれません。結果的に、そんな国民性が日本の生活工芸品のような異文化を受け入れる力になっているように思います。


和気藹々とワークショップを楽しむオーストラリアの人たち

 

ウェルビーイングと日本の生活工芸品

 

この国では、ウェルビーイングの考えが社会に根付いているように感じます。そこでは、心も身体もいかに心地よく過ごせるか、が重視されます。仕事は人生の一部という考えで、決して無理しすぎず、家族や友人との時間、また自分自身との時間を大切にします。そうしたライフスタイルのなかで、日本の生活工芸品が好まれているのです。

例えば1人で過ごす時間なら、朝のヨガを日課にしているお客さんは「30分という長さがぴったり」ということでお線香を愛用してくれていますし、また友人を家に招いて過ごす時には、こだわりのテーブルウェアなどが活躍します。自分の時間も、大切な誰かと過ごす時間も大事にしたい。そのためには自分がご機嫌でいられることが欠かせません。そこに日本の生活工芸品が選ばれ、生活に取り入れられているのは、自然なことのように思います。

特に好まれるのは、人の手の存在を感じさせるものです。器なら、手捻りだったり、釉薬の「ゆらぎ」があるものが好まれたり、もしくは指紋が微かに残っているようなものが面白がられます。「誰が、どんな人が作っているの?」とお客さんによく聞かれます。人懐っこく、人間味があふれるオーストラリアの人々は、工芸のなかに見出す作り手にも思いを馳せ、親しみを感じているのかもしれません。一つの生活工芸品を通して、さまざまな豊かさを享受することができる。ウェルビーイングの国で、日本の生活工芸品が注目される理由です。

 

オーストラリアから世界へ

 

一般的に日本の職人の世界においてはオーストラリアはまだ馴染みの薄いマーケットと考えられていますが、私自身はオーストラリアの大きな可能性を感じています。一つには、オーストラリアからのさらなる展開にあります。孤立した大陸ゆえ、この国以外の展開はイメージしにくいと思いますが、販売先がこの国から海外へ広がっていった商品が多数あります

英語圏かつ、移民が多い国、というのが大きな理由です。例えばBtoBなら、オーストラリアの案件で繋がった方が、他国での案件に使いたいということで、私たちの商品を発注してくれることもあります。BtoCなら、私たちのオンラインショップには世界各国からのアクセスがあるので、そこを通じて世界各地に販売することができます。Simply Nativeはオーストラリアが拠点ですが、ここを起点に販売先が世界中に広がっていく、私たちがその一助になっていることにやりがいと喜びを感じています。


ロサンゼルスへの商品展開
Edit & text : Ikeo Yu
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