フラグシップストアから生まれる繋がり | 私たちのこと vol.6


店舗はものの背景を体験する場

 

Simply Nativeはシドニーの中心部であるサリーヒルズにフラッグシップショップを構えています。サリーヒルズは東京で言う表参道や青山のような場所。感度の高い人に人気のショッピングエリアであり、周囲には高級住宅街も広がります。そうした場所に、日本の風土や、作っている人たちの顔がわかる商品が並んでいる光景を見ると私自身も誇らしい気持ちになる、そんなエリアです。場所柄、お客様の多くは20〜40代の経済的にも余裕がある層です。彼らが、自分の暮らしを喜ばせてくれるものを求める時に、あるいは人と違う自分らしさを求める時に、私たちが取り扱わせてもらっている日本の生活工芸品がマッチするようです。基本的に商品は完成形でお客様の手へと渡るので、製作過程や作り手の思いなどの背景は伝わりにくいです。そのため私たちの店舗ではお客様自身が体験したり、実際に触れられる仕掛けを準備しています。

 

浮立面職人の中原さんによる木版制作

 

日本文化と生活のショールーム

 

そのひとつが、店舗の空間の作り方です。
ショップ空間の中に日本の住空間をつくりました。土間、居間、坪庭、そして茶室や応接室などを設けています。空間ごとに適した商材を誂えたり配置することで、訪れる方にその空間性を体感してもらったり、空間作りの参考にしてもらえたらと思います。お茶室では一般向けのワークショップをよく行う一方で、応接室ではシェフの方に向けた試食会や建築家との打ち合わせを行うなど、多目的に活用しています。フラッグシップショップはお店の姿をしていますが、日本の風土や私たちの事業の在り方を、五感で受け取っていただく、ショールームのような場所でもあります。


日本の学び合うコミュニティに倣う

 

私個人としては茶道のお稽古に10年以上通っていますが、そうした芸事に限らず、日本では古くから同じ集落に住む人同士による助け合いが当たり前に作られてきたように思います。例えば、集落のインフラを地域住民が主体となり、話し合いを重ねながら作り維持していく「普請」の考え方などは、相互扶助であり、共に学ぶ活動でもあると考えます。店舗ではお抹茶やお香、和紙などを題材にさまざまなワークショップを行っていますが、そうした学び合いのコミュニティを醸成する機会になれば、と思っています。

 

生け花ワークショップの様子


ワークショップは「感覚」と「瞑想」

 

ワークショップのなかでも、現在4ヶ月待ちというくらい人気があるのが「茶歌舞伎」です。茶歌舞伎はもともと茶道における伝統的なお茶遊びなのですが、その内容を抹茶に馴染みのない方でも楽しめるようにアレンジしワークショップに仕立てています。グレードの違う3種類のお抹茶(料理用抹茶、普段使い用、特別な日用)を飲み、それぞれの違いについて学んだ後に、最後に飲んでもらう抹茶を当ててもらうという内容。楽しみながら歴史や効能や味の違いについて学んでもらえます。他にも香料を混ぜ合わせて自分好みのお線香を作れるワークショップも人気があります。参加した方からはSensory(感覚的)だね、とかMeditative(瞑想的)だね、と言われることが多く、そこが人気の理由だと思っています。人の感覚に訴える要素は国や人種を越えて伝わるものですし、また現代においては自分を内省する時間を必要としている人も多いのではないでしょうか。

 


茶歌舞伎ワークショップの様子


日豪の作り手を繋ぐ

 

最近では、店舗が日本の職人とオーストラリアのデザイナーを繋ぐ場にもなっています。2024年3月には愛媛県の和紙作家さんをお招きして和紙作りのワークショップを開きましたが、同じタイミングで、オーストラリアのデザインファーム数軒に声をかけ興味をもってくれた業者さんたちとの商談も行いました。


オリジナル製作を依頼した木版


現在は日本の職人とオーストラリアのデザイナーに、Simply Nativeのオリジナルブランドティーのパッケージを共同製作してもらっているところです。佐賀県の浮立面職人の中原恵峰さん・博和さん親子に木版製作を依頼し、全体レイアウトとカラーデザインをオーストラリア人染色家のMelinda Healにお願いすることで、抹茶が日本に伝わった背景やストーリーを表現していただきました。両者の良さが生かされたコラボレーションになったと思います。このように店舗は日豪をまたいで、使い手と作り手だけでなく、作り手同士を繋ぐ場でもあります。今後もこうした場の可能性を広げていきます。

 

木版の原画を生かしたパッケージデザインイメージ

 

Text & Edit by Yu Ikeo

 

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