これからの伝え方について
Simply Nativeは日本のものづくりと海外を繋ぐミドルマンとして、商品のどういう価値をどう解釈し、伝えるか、を意識的に行なってきました。ここでは最終回として、私たちが目指すこれからの“伝え方”について考えたいと思います。
伝わりきれないもどかしさ
そこにはこんな課題があります。店舗や打ち合わせでよく感じるのは、商品の制作過程だったりそこに宿る職人性を、限られた時間で伝えきるのは難しい、ということです。国や文化など、もともとの前提が違うことも理由かもしれません。ですが、受け取り手による部分も大きいのでは、と私たちは考えます。目には見えない商品背景は、経験や環境に裏打ちされた想像力を働かせることで受け取ることができるものだからです。
クリックひとつで商品が買えたり、世界の情報にアクセスできたり。現代では、何かを手に入れようと思い立ってから完了するまでの時間は一瞬です。そうした利便性の加速を当たり前のように受け入れる社会では、私たちの想像力も容易に失われてしまうように思います。想像力がなければ、本来素晴らしいものであるはずの職人性も、効率の悪さや不均一、などと悪い側面として捉えられてしまう。社会全体がそうならないためにも、私たちは職人性が立ち現れる制作過程をできるが限り可視化して伝えることで、お客さんの学びや気づきになれば、と考えています。
フラッグシップショップでの買いもの風景
体験へのアクセスを増やす
日本に漠然と良い印象をもってはいるけれど詳しくは知らない人が多いことを、店舗や商談を通じて日々感じます。今後も、日本の生活工芸やそこに注がれる文化へのアクセシビリティを増やしていくのがわたしたちの役目です。そのためにも、体験の幅が広がっていく仕掛けを考えています。
まずは人気の抹茶に光を当てて、調和の精神やおもてなしの心遣いといった茶道のコアコンセプトを学べる初心者向けのワークショップを開いています。
お香ワークショップ開催の様子
加えて、Simply Nativeの商品を使ったり味わったりできる、イートインスペースを店舗に計画中です。そこで肝となるのが、抹茶を挽く石臼です。導入が叶えば、店舗で挽きたての抹茶をいただくことができる上、量り売りで販売することもできます。機械製の石臼ですが、それでも1時間に40g(抹茶一椀は2g)しかできない手間と時間の贅沢さを体験していただけるのではないかと。そうしたことを今も店舗ではお伝えしていますが、実際に見て味わってもらうことで、お客さんに驚きをもって伝わるのかなと思います。
作り手と使い手の直接交流を増やす
中長期的には、作り手と使い手が直接出会う場を増やすことで、商品の背景を感じられる機会を作っていきたいです。例えば、日本の職人をシドニーに招いての”クラフトマンインレジデンス”。店舗でワークショップやデモンストレーションを行なってもらったり、クライアントの要望を直接聞きながらシドニーで制作してもらったり。お客さんやクライアントの商品理解が深まるのはもちろん、反対に、どんなものが求められているのかを直接海外のユーザーから聞くことは、作り手にとってのインスピレーションにもなります。
素材や設備が揃っていれば場所を変えても制作できる、という職人の強みを活かした企画です。
京都の陶芸を紹介するイベントの開催
一方では、シドニーのお客さんを連れて日本の職人を訪ねることも、将来的にやりたいことの一つです。現在、オーストラリアから日本へ旅行する人の多くの人が、宿泊や文化体験に費用をかけているという統計があります。そうした文化体験の一つとして、ものづくりの現場に訪ねるツアーを計画したいと考えています。これに限らず直接的な人的交流は積極的に行なっていきたいですし、そこから新しい展開が生まれると思います。
改めて思う、ミドルマンとしての存在意義
事業開始から8年が経ち、これまでに海外未進出の168社の販路開拓をお手伝いしましたが、そのなかで最も印象的だったのは、何人もの作り手が、新たな価値観に触れることで改めて自分の仕事に誇りをもつようになった、その変化に触れたことでした。
例えば、島根県浜田市で昔から茶道炭の炭焼きをされている職人の西森さん。後継者候補の中村さんの助けもあり、2017年からSimply Nativeを通じてオーストラリアと米国に、これまでに計400kg程の茶道炭を卸していただいています。「Simply Nativeがいなければ、海外の茶人に炭を使ってもらうことは私の人生に起こりませんでした」と有難い言葉をいただいたことは忘れません。私たちの存在意義を大いに感じる瞬間でした。今後もシドニーを拠点に世界に向けて事業展開することで、関わっている作り手の皆さんにそれぞれの仕事を誇らしく感じていただけたらと思います。
まずは、私たちを通して海外で認知された作り手のモデルを10名作ることを目標に、これからも力を尽くして職人さんの成功事例を作っていければと思います。