日本の文化商社としてのスタート | 私たちのこと vol.4


“日本の文化商社”の役割とは?

 

Simply Nativeが生活工芸品を通じた日本の文化商社だということはお伝えしましたが、その在り方は自然な流れで今の姿に辿り着いたように思います。事業開始から振り返りつつ、今求められる私たちの役割について考えてみたいと思います。

 

石州瓦を耐熱食器として

 

Simply Nativeではインテリア商材から食材まで幅広い商品を扱っていますが、始めは一つの瓦からスタートしました。2016年。島根県石見地方の地場産業に石州瓦という粘土瓦があって。耐火度の高い良質な粘土を1200度以上の高温で焼き上げるという世界でも珍しい瓦で、日本海に面し、冬は雪深い石見地方では、凍害や塩害にも強いこの瓦が重宝されてきました。そんな地域の事業者さんのなかでも、裏山で採れる来待石から作る昔ながらの釉薬にこだわって、さらに1350度という世界一とも言われる高温で焼き締めて瓦やタイル製品を作っているのが亀谷窯業さんです。耐火度の高い瓦は直火もOK。この特性を生かして、耐熱食器として、BBQ文化があるオーストラリアで販路開拓できないか、と亀谷さんと懇意にしている兵庫県小野市の地場産業である播州刃物のブランディングや職人育成を手がけるシーラカンス食堂さんから相談を受けたのが始まりでした。

石州瓦の亀谷窯業

シーラカンス食堂さん、商品デザインを担当するFUDO DESIGNさん、そして亀谷さんと私とで、海外販路開拓に向けたチームを組みました。私は早速、亀谷さんのタイル製品と同素材で作った耐熱食器のサンプルを大きなバッグに忍ばせ、シドニー中の飲食店を周りました。蓋を開けてみると、テーブルウェアとして使ってみたいと言ってくださる飲食店の方は多かった。結果的にタイルが2件、耐熱食器としての契約が3件決まりました。

亀谷さんのタイルは自分で採集した地元の土を使う上に手作業で焼き上げるので、1枚1枚表情が違います。そうした機械製には出せない風合いや釉薬の揺らぎが料理人や建築家に評価されたんです。彼らは常にオリジナリティや特別感を求めているので、そうした商品のムラを面白みだと捉えてくれるのです。

おまけに、彼らは亀谷さんの生き方そのものにも興味津々でした。亀谷さんは仕事の忙しい時でも、春は早朝からタケノコを採りに裏山へ入ったり、夏は近くの海に海藻を採りに行ったり。周りの環境を積極的に楽しんで、自然に溶け込むように暮らしている。彼にとっては瓦づくりの仕事も、こうした生きるための営みの一環としてあるように思いました。彼らが、そうしたものが生まれる背景を「もっと聞かせて」と言っていたのが印象的です。

 

新規性のある日本的なもの


以降、飲食店向けに食器類の卸を広げていきましたが、オーストラリアで日本食ブームが広がるなかで「日本にインスパイアされたことをしたい」「けれど何が正解かわからない」というオーナーさんが多いことがわかってきました。彼らの方向性は曖昧ながらも、何か新しいことをしたい、という思いが強い。そうした要望に合わせて、商品販売だけでなく、コンセプト作りからブランディング、メニュー開発まで、トータルコーディネイトというかたちでプロジェクトに入ることが多くなっていきました。

一例としては、オーストラリアの有名なシェフMatt MoranがプロデュースしたRekōdoという日本食レストランをトータルコーディネイトしました。そこでは建築のコンセプト作りに始まり、メニュー提案、そして内装用商材やテーブルウェアや食材の卸しを行なっています。同様に、近年出店するオーナーに共通するのは、日本的なことをしたいが新規性がほしい、というリクエスト。そこにどこまで応えられるかが求められているのです。

Rekōdoの店内

ローカルの客層に合わせて抹茶をセレクト


もう10年以上ブームが続いている抹茶メニューにも、新規性が求められています。シドニーカフェMoon & Backから抹茶ラテを提供したいという相談を受けた時には10種以上の抹茶を一緒にテイスティングし、そのうち価格と客層に合ったカジュアルなグレードの抹茶を選んでいただき、今も継続して卸しています。一方、世界的にも知られるバー Maybe Sammyには、マティーニに抹茶を入れたオリジナルカクテル「抹茶ティーニ」を提案したところ気に入ってもらえて、そこに使うグレードの高い抹茶を提供しています。

一口に抹茶と言っても産地・種類・グレード・テイストは様々。「苦味が強い」「旨味が強い」といったそれぞれのテイストを踏まえつつ、「アジア系はこういうテイスティングが好き」といった店の客層の好みまで把握した上で最適のものを提案できる事業者はオーストラリアではなかなかいません。そんなところでも私たちがお役に立てているかなと思います。

Maybe Sammy の抹茶ドリンク

センスチェックが求められている


私が大事にしているのが、これまで日本との接点がなかった場所に入り込んで商材を届けていくこと。取引先は日本人スタッフが1人もいない店も多く、そういう取引に大きなやりがいを感じます。

ちなみに、先に挙げた3つの店舗にも日本人スタッフはいません。そんな時私たちに求められるのが、よく陥りがちな「なんちゃって日本」にならないためのセンスチェックです。オーストラリアはもともとアジア系移民が多く、アジア系の飲食が年々増えています。多くの日本食レストランが切磋琢磨するなか、日本人でなくては見抜けないレベルの“日本の本質”がますます求められるようになっているのです。

石州瓦の材料となる粘土

 

Edit & text : Ikeo Yu

Back to blog